昨季の決勝カードは「祭典」にする。ワイルドナイツはサンゴリアスをどう見る?
簡潔な言い回しに想像力の深さがにじむ。埼玉パナソニックワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督が、画面越しに笑う。
「今週末は本当に素晴らしい試合になるだろうと、選手、スタッフ、コーチ陣一同、楽しみにしています。もしかしたら、ファンの方もそう思ってくれているのではないでしょうか。昨年は両チームともいい戦績で、今季もサンゴリアスもいい準備をしている。ラグビーの祭典と言えるような、素晴らしい一日になるでしょう」
2月26日、リーグワンの第7節を戦う。指揮官の言葉通り、相手は東京サントリーサンゴリアス。昨年5月まであった最後のトップリーグのプレーオフ決勝と同じカードを、本拠地の熊谷ラグビー場で迎える。
4日前は試合会場近くの本拠地で全体練習をおこない、おもに防御の立ち位置や出足、連係を強化。堅守速攻がチームのスタイルだ。
夕方頃にグラウンドを引き上げるやオンライン取材に応じ、攻撃力を誇るサンゴリアスとのゲームの見どころを語る。
「どちらもポジティブないいラグビーをする。両軍とも昨季とほぼ同じようなメンバー構成でこの試合に臨むでしょう。そのなかでも、サンゴリアスは昨年のボーデン・バレットが抜けてダミアン・マッケンジーが加入していて…」
サンゴリアスは昨季、ニュージーランド代表の万能BK、ボーデン・バレットを司令塔のSOで起用してきた。今季はやはり同国代表で、大型のバレットよりもフットワークの軽さが際立つダミアン・マッケンジーと契約。おもに最後尾のFBへ配している。
過去にニュージーランドのクルセイダーズ、オーストラリア代表を率いたことのあるディーンズは、こう見立てる。
「どちらもワールドクラスです。マッケンジーは横の動きが得意で、それを警戒しなければいけない。マッケンジーは、昨年のバレットとは違う役割になるのかもしれませんが、FBからライン参加するのは脅威。バレットも、15番に入った時のほうがサントリーにとっていいラグビーができていました」
チームは開幕直前にクラスターを発生させた。最初の2試合は不戦敗となった。左PRで日本代表の稲垣啓太は、リーグを代表する視点をにじませて言う。
「2試合が中止になってですね、選手はそれぞれ悔しい思いもしたでしょう。ただ、皆、(陽性者に)なりたくてなったわけじゃないですし、仕方ない部分もある。そこについてはもう、何も思っていないです。ただ、引き続き感染予防に努めなければ、我々の試合だけではなくリーグを成功させることができなくなる。これは、全チーム、選手、スタッフが引き続き心がけていかないといけないことです」
活動再開後は4戦負けなし。ディビジョン1の12チーム中、実施した試合を1度も落としていないのはサンゴリアスとワイルドナイツだけだ。
東福岡高卒4年目でNO8として2戦連続先発中の福井翔大は、「怒ってくれる人が周りにいる環境はありがたいと思いました」。この日の練習では、ワールドカップ3度出場の堀江翔太に防御面のミスを指摘されたそう。熟練者の助言に謝辞を述べる。
「練習できちんと指摘してくれるから、試合でのミスを抑えられてるのかなと思います」
右肩上がりのチーム状態について、稲垣は「堀江さんも(別な記者会見などで)言っていましたが、いままで積みあがったものが2週間で失われるわけではない」。ただし、こうも警鐘を鳴らす。
「文化として積み上げていたものが試合に出てはいるのですが、100パーセント出せているかと言えば、そうではない。この課題には取り組んでいるところです」
具体的に気になるのは、反則の数と質。当日のレフリーの判定基準への対応力、ボール争奪局面での見極めを見直し、さらに順法精神を高めたいという。
「第3、4節はおそらくペナルティが10個以上あったと思うんです。第5節はやっと1ケタに減って、前節も1ケタ台だったのですが、まだ多い印象があります。なぜ多い印象があるか。それは、不用意なペナルティがあるからです。我々はディフェンスを強みとしていて持っているチーム。ディフェンスの最大の目的は、ボールを奪い返すこと。そのために争奪戦で(球に絡むなど)チャレンジすることは必要なんですけど――その判定にはレフリーが介入しますが――なぜ、その判断をしたのか、という、イージーなペナルティが多いんですよね。争奪戦に行くまでの立ち位置(境界線より後ろに下がらないこと)でのオフサイドを犯したり、レフリーが『もうこのシチュエーションは反則とみなします』という合図を出しているのにファイトをし続けてしまったり。これではペナルティが1ケタ台になったとしても、相手のレベルが上がるほど3点(ペナルティゴール)を奪われる。引き続き、僕は皆に、注意喚起を続けていきたいです」
FW第3列で防御の引き締めが期待される福井は、当日の目標を聞かれれば「そういうことを考えすぎたら空回りしちゃうので、あまり考えないようにします」。
「できる限りの準備を1週間、やり切る。その、やり切る、ということを目標にします」
ワイルドナイツにとって今度のゲームは、中盤戦きっての「祭典」であると同時に、進化の過程における貴重なレッスンの場でもある。