歴史深い釜石シーウェイブス。初のホストゲーム&死のディビジョンへ「ポジティブに」。
ファンがスタンドで富来旗を振る。選手会長の中野裕太がその意味を知ったのは、最近のことだった。
釜石シーウェイブスは、かつて日本選手権7連覇の新日鉄釜石を前身とする。2001年からは、地域の企業やファンに複層的に支えられる。
今年1月からリーグワンのディビジョン2へ参戦する。開幕に際し、クラブの歴史を回顧した。ここで感銘を受けたひとりが、中野だった。2016年に神戸製鋼から移籍した32歳のFW第3列は、坂下功正総監督から富来旗の逸話を聞いた。
「取材の時に『なぜ富来旗を振っているのか』と聞かれ、僕、何も答えられなかったんですよ。それで坂下さんに『(日本選手権決勝が開かれた)国立競技場を盛り上げようと振ったのが、いまにつながっている』と聞きました。…すごく(知ることができて)よかったと思いました」
戦う大義を見直す一環で、自分たちのルーツを知った。2月13日には、リーグワンで自軍初のホストゲームをおこなう。
場所は地元から離れた東京の秩父宮ラグビー場だが、桜庭吉彦ゼネラルマネージャーは「多くの方に富を与えると言われる富来旗を通じ、皆さまに幸せが届けばと思っています」。話をしたのは9日。チーム主催のオンラインでのことだ。
マツダスカイアクティブズ広島との一戦へ、思いを述べる。
「地方で活動するチームの存在価値を東京で表現したいと思っているところです。我々のホストエリアの特徴、よさは、住んでいる人々の優しさ、温かさ、いざとなった時の結束力です。多くの皆さんが心温まる、ひとつになれる、結束できるホストゲームができればと思っています」
参加するディビジョン2は死のグループだ。加盟する6チーム中上位3傑がディビジョン1との入替戦に行けるかたわら、残り3チームはディビジョン3との入替戦に加わる。
さらに下部との入替戦では、昨年まで国内最高峰に位置したトップリーグに在籍したことのあるクラブが出てきうる。
ディビジョン2でも、4チームがトップリーグ経験を有する。創部以来トップチャレンジなどの下層グループにいたシーウェイブスは、今季開幕3連敗中。厳しい戦いを強いられている。
しかし、須田康夫ヘッドコーチはこうだ。
「チームで成長できることをポジティブに捉えています。レギュレーションもありますが、(対戦カードを意識するよりも)自分たちのやるべきことにフォーカスして、どこまで通用するかを試したいと思っています」
初戦から三重ホンダヒート、日野レッドドルフィンズ、三菱重工相模原ダイナボアーズといった優勝候補としのぎを削ってきた。4月のレギュラーシーズン終了までに白星を積む、その道筋を見出しつつあるという。
「FWのモールでトライを取れる。敵陣に侵入できれば、スコアして帰ってこられる。ハイスコアでの敗戦が続きますが、課題が明確です。そこにフォーカスしたい。(防御で倒れた後に)3秒以内に早く起き上がって次のプレーに参加すること(目標)を見つめ直し、体現し、それができた時にいい結果が出ると信じています」
その感覚は、中野も共有する。
開幕前のキャンプでは部内対抗のトライアスロン大会をおこない、「須田ヘッドコーチにも街中を走っていただきました」。結束力を高めており、ここ3戦を通しても「どうしようもないなぁという感覚は誰も持っていない」と強調する。
「試合に向けてフォーカスしたこと、戦術、目指すことができている時間帯は、自分たちの時間帯を作ってスコアができている。そうでない時間帯が多すぎるのが課題ですが」
タフなディビジョン2の構造について聞かれても、前向きな言葉を返した。
「昨季までトップリーグにいたチームと試合ができるので毎週、エキサイティングな気持ちです。チームとしても個人としても成長できるチャンスがある。楽しんで戦えています」
今季新加入のブレット・キャメロンは、ニュージーランド代表1キャップを誇る正SO。日大卒のルーキー、村上陽平と司令塔団を組む。
「1週間ごとに与えられた課題をクリアするのが大事だと思っています」
平時は降雪のなかで練習と、環境面でのハンデも受け入れている。キャメロンは「暖かくなるのを楽しみにしています」と笑いながら、独自の文化を持つクラブでのチャレンジを楽しんでいる。