日本代表 2021.12.14

まじめさと賢さではい上がった。日本代表ジャック・コーネルセンの肖像。

[ 向 風見也 ]
まじめさと賢さではい上がった。日本代表ジャック・コーネルセンの肖像。
母国オーストラリアのスター軍団相手に日本代表初先発で奮闘したジャック・コーネルセン(撮影:松本かおり)


 試合開始早々、人柄のにじむファインプレーがあった。

 10月23日、昭和電工ドーム大分。攻めるオーストラリア代表のパスが乱れるや、守る日本代表のジャック・コーネルセンが防御網から飛び出す。球を蹴る。

 カバーに回る相手選手より先に、自ら転がしたボールへ身体ごと飛び込む。身を挺して攻撃権を奪う。

 今年代表デビューし、夏までに2キャップ(代表戦出場数)を記録。この日は母国との一戦にあって、代表初先発を果たせた。長身選手のひしめくLOに入り、地上戦でタフに戦う。序盤のセービングの後は、タックルとその後の素早い起き上がりでも光った。

 フル出場。試合は23-32で敗戦も、首脳陣の信頼をつかんだか。10月29日以降の欧州遠征では全試合に出る。

 身長195センチ、体重110キロの27歳。日本代表が8強入りした2019年のワールドカップ日本大会時は、まだ代表資格を得ていなかった。

 2017年に練習生として現在の所属先である埼玉パナソニックワイルドナイツに入り、国内トップリーグで正NO8として台頭したのは2020年からだ。

 極東の新たな黒子役に、チームの吉浦ケインS&Cコーチはこんな印象を抱く。

「結構、まじめ。静か。一番、大事な時だけ話す。それ以外の時はそんなに話さない。リーダーシップグループにも入っていて、チームへの影響力は高い」

 大丈夫だろうか。初来日のコーネルセンをひと目見て、2021年春までパナソニックで指導していた相馬朋和はそう感じたという。

「初めて来た時は本当にもやしみたいで、あまりタックル行かなくて。コンタクトは得意じゃなかったんですよ、最初は」

 大丈夫だ。あいつの親父のことは知っているだろう。相馬の問いかけに、ロビー・ディーンズ監督はこの一点張り。確かにコーネルセンの父であるグレッグ氏は、かつてオーストラリア代表の名選手だった。同国で指揮を執ったことのあるディーンズは、ブリスベン育ちで地元のクイーンズランドカントリーでプレーしていた青年に可能性を見た。

 少し不安に思っていたという相馬も、コーネルセンのこんな資質を評価するようになる。

「頭のいい子だと思います。自分が何をしなきゃいけないかを理解している。最初の来日の時に、本人には(現状について)話したんですよ。そうしたら、次に来た(時間を置いて来日した)時にはよりコンタクトに行くようになって。身体も大きくなっていた。短期間で変化を見せてくれて、そこからはずーっと成長し続けてくれている」

 チームには2020年までニュージーランド代表のサム・ホワイトロック、サンウルブズなどで活躍したサム・ワイクス、2021年シーズンには元イングランド代表のジョージ・クルーズと、ラインアウトの得意なLOが在籍。その財産を活かせたあたりに、コーネルセンの「頭」のよさがにじむ。吉浦はこう見る。

「パナに来てホワイトロック、ワイクス、クルーズと練習できたのはよかったと思う。今季は、ミーティングや練習でラインアウトに関して自分の意見を出す選手になった」
 
 相馬によると、その吉浦の存在が大きかった。オーストラリア人と日本人のダブルである吉浦は、シーズンオン、オフを問わずこの人の肉体強化をサポートする。

 コーネルセンの入団を前後し、FLのベン・ガンター、CTBのディラン・ライリーもブリスベンから来日。3歳下の2人はそれぞれ2015、2017年に練習生としてパナソニックの活動に参加し、やがて正規のプロ選手となっていた。2021年に日本代表入りした3人は、吉浦のオーダーメイドのプログラムに取り組んできた。

 なかでももっとも勤勉だったと言われるのが、年長者のコーネルセンだった。昨季のトップリーグでゲーム主将を務め、「私は、自分の行動で(規範を)示すリーダーだと自覚しています」と謙虚に話していた。

地上戦でも空中戦でも激しくプレーするジャック・コーネルセン(撮影:松本かおり)

 ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いるいまの日本代表は、LOへは常にタックルをし続けられる頑丈さ、忍耐強さを求める。

 そのLOの位置ではいま、人材不足が懸念される。

 2019年ワールドカップでハードワークしたトンプソン ルークは一時引退。このほど現役復帰を表明も、代表に戻るかは未知数だ。さらに今秋のツアーでは、身長188センチながら指揮官から評価されるヴィンピー・ファンデルヴァルトが故障離脱した。

 コーネルセンが夏のツアーで19番をつけて日本代表デビューを果たし、秋の母国とのゲームで4番をつけるのは、あらゆる意味で必然かもしれなかった。本人は以前、この国への愛着をこう語っていた。

「日本の生活は、長くいればいるほど楽しめています。パナソニックにいるなかで、周りの選手との友情を築けました。本当にお互いを尊重し合う日本のカルチャーも気に入りました。…オーストラリアにそのカルチャーがないというわけではないですが、日本はより互いが尊重し合っている国だと感じます」

 相馬は、下積み期間中のコーネルセンとライリーが回転寿司店へ通っていたのを覚えている。「回転寿司は、回転寿司という食べ物だ。寿司を食いに行こう」と、当時の拠点だった群馬県太田市内の寿司屋へ連れて行った。

「彼らがチームを思ってくれるのと同じくらい、私も彼らに思い入れがある。それは私だけじゃないですよ。ロビーさんも、ケインも、おそらく飯島(均ゼネラルマネージャー)さんもそう。皆が彼らの成長を望んで、期待して、信じて、本人たちがそれに応えてくれた。恵まれているんです。幸せ者ですね」

 群馬で育った日本代表のオージーはいま、クラブの移転に伴い埼玉県熊谷市でハードワーク。2022年1月に開幕する新たな国内戦、ジャパンラグビーリーグワンを見据える。

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