「屈辱」の合流から一線級に触れる。静岡ブルーレヴズ中井健人のサンウルブズ挑戦記。
その輪に加わる心境は、複雑だった。でも、いざその輪に加われば多くを吸収できた。
「(本来は正規の)メンバーとして選ばれることが一番、嬉しいこと。ただ、練習生でもこのようなインターナショナルクラスでやれる機会はなかなかないので…」
プロラグビーチームの静岡ブルーレヴズに所属する中井健人は、チーム名がヤマハ発動機ジュビロだった6月中旬、日本代表(「JAPAN XV」名義)の強化試合に挑むサンウルブズに練習生として帯同した。
本番の会場であるエコパスタジアム、サンウルブズの練習拠点が静岡県内にあったため、地元クラブにあたるヤマハの若手に白羽の矢が立ったのだ。
筑紫高、法大を経て2019年度入部の中井も、そのひとりだった。
事前にPCR検査を受け、正式なオファーから約1週間後にあたる6月9日までに合流する。実戦形式練習では、相手側のWTB、FBに入る。キヤノンから参加した沢木敬介コーチングコーディネーターのもと、「JAPAN XV」の動きを想定してラン、パス、キックのプレー選択を考慮する。
「屈辱、ではないですが…。メンバーに(パナソニックの竹山)晃暉、(トヨタ自動車の高橋)汰地という同級生がいるなかで練習生という立場だったことには、悔しい気持ちが強かったです。ただ、僕は今季(ヤマハで)リザーブでしか出ていない(公式戦計5試合でベンチ入り)。吹っ切れて、チームで結果を残して、こいつらと同じ舞台で戦えるように努力しようと再確認できた」
実際に学べた。ラグビー専業のプロ選手がサンウルブズの面々と身体をぶつけ、「(自身が)社業の間も、皆、高いレベルでやっている」と直感した。
24歳の社員選手である中井は、通常勤務のあるオフの間も、朝6時からのウェイトトレーニング、17時半以降の走り込みを自らに課す。それでも、より柔軟に時間を管理できるプロ選手に触れてこう述べるのである。
「(プロ選手は)シーズン中の身体つきなどが維持されたまま合宿に臨んでいた。ヤマハの選手は皆、その部分を感じたと思います」
全体セッションの後は、そのプロ選手の個人練習に混ざる。スタンダードの高さに感銘を受ける。サンウルブズで軸をなすのは、梶村祐介(サントリー → キヤノン)、尾崎晟也(サントリー)ら、日本代表定着を目指す若手、中堅の有望株だった。
「ひとりひとりのスキルが高い。梶村さん、尾崎さんと練習させてもらったんですけど、パス、パスコースに入るまでのアジリティなどを、細かいところまで確認していました。細かいところを詰めていく姿勢みたいなところは、いい学びになりました」
所属チームは2018年度まで国内トップリーグで5季連続4強入りも、強力な突破役を多数起用するなどアップデートを図った2020-2021シーズンは、同プレーオフで2回戦敗退。2019年度入部の中井は「個々は強くなったけど、チームとしてのディフェンス(に課題があった)」と反省する。
「(リーグ全体が)プロ化に近づくなか、いろんなチームがビッグネームの選手を呼ぶなど強化をしてくると思います。そのなかでも、僕たちは(ヤマハ時代からの)大事な部分を残しつつ、進化しないといけない。それが昨季の課題でした。僕自身も、今年まで1年間取り組んできたディフェンスの部分でまだまだなところがある。来年もチームにコミットしてやっていきたい」
2022年1月、国内のバトルはジャパンラグビーリーグワンに新装開店する。チームの運営組織を法人化させた新生・ブルーレヴズにあって、身長182センチ、体重92キロのランナーが狼軍で得た財産を活かす。