コラム 2021.07.04

静岡県×プライドハウス東京×村上愛梨。ラグビー日本代表戦で見た、虹色の光景。

[ 多羅正崇 ]
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静岡県×プライドハウス東京×村上愛梨。ラグビー日本代表戦で見た、虹色の光景。
左から2人目、レインボーカラーのマスクをしているのが松中権さん。その右が村上愛梨さん。6月12日に静岡・エコパでおこなわれた日本代表戦時、プライドハウス東京、静岡県職員の皆さんと


 ゲイアクティビストであり、LGBTQに関する情報発信を行う共同体プロジェクト「プライドハウス東京」代表の松中権(まつなか・ごん)さんが言った。

「ラグビーには可能性があります。いろんなスポーツにアクセスしていますが、これだけ協力してくれるのはラグビーだけかもしれません」

 6月12日、日本代表(JAPAN XV)×サンウルブズが開催された静岡・エコパスタジアムで、2021年に同性愛を公表した村上愛梨(横河武蔵野アルテミ・スターズ)が、LGBTQ(性的マイノリティ)に関するパンフレットを配っていた。

 かわたらには、同じくLGBTQを象徴するレインボー柄のマスクをしてパンフレットを配る松中代表の姿もあった。

 日本代表戦の会場で、LGBTQのパンフレットを配る——容易ではない取り組みだが、試合会場が静岡県だからこそ実現した。

「プライドハウス東京の代表として、私が静岡県ラグビー協会さんの特別アドバイザーになった関係で、静岡県庁にご挨拶に行ったのですが、その後に県からご連絡をもらい『日本代表戦でブースを出すので一緒に活動しませんか』と言って頂きました。こういう機会がないので、とても有り難いです」(松中代表)

 静岡県は性の多様性が尊重される社会づくりに取り組んでおり、県庁にはレインボーフラッグが立つ。

 日本代表戦での冊子配りは、多様性を尊重する人びとの協働によって生まれた、虹色の光景だった。

 しかしLGBTQを取り巻く社会はまだまだ容易ではない。だからこそ松中代表は決起しなければならなかった。

 松中代表は2001年から電通で16年間働いていたが、2015年の一橋大学アウティング事件で人生が変わった。ゲイであることを同級生に暴露(アウティング)された一橋大学の大学院生が2015年8月、校舎6階から転落死。偶然にも同じ一橋大学の法学部出身だった松中さんは、衝撃を受けた。

「僕が校舎の6階にいてもおかしくない、と思ったんです。それくらいLGBTQの当事者は、綱渡りの人生です。たまたま生きている。たまたま死んでしまった。そんなことはもうなくしたいと思って、会社を辞めて、プライドハウス東京の活動をしようと決めました」

 焦燥感、使命感に突き動かされて衝動的に退社し、日本初の常設の「居場所作り」に奔走した。

 そうして誕生した常設の総合LGBTQセンターが「プライドハウス東京レガシー」だ。2020年、当初の計画を前倒しして、東京・新宿御苑の近くに開設した。

「大きな目的は、若者のLGBTQ当事者の居場所を作ることでした。一番正しい情報がなくて、プレッシャーを受ける時期にある子たちが、何かあったら行ける場所を日本に作りたかったんです。コロナ禍で若者がいろんな居場所を失ったので、当初の計画を前倒しして2020年10月にオープンさせました」

 ぼーっとする場所にしてもいいし、待ち合わせ場所にしてもいい。カフェ施設もあり、のんびりもできる安心・安全の居場所だ。販売されていない貴重な本を閲覧できる書架もあり、貴重な情報収集の場にもなっている。

 プロジェクトとしてのプライドハウス東京は共同事業体(コンソーシアム)であり、33のNPOと15の企業、21の大使館のチームだ。

 オリンピック史上初となる大会組織委員会の公認プログラムであり、後援には東京都などの自治体、日本ラグビーフットボール協会などの協会団体も名を連ねる。松中さんはそのチームの代表者だ。

 今後はプライドハウス東京を通してスポーツ界とLGBTQコミュニティの結びつき、理解を深めていきたいところだ。しかし「スポーツの世界は差別と偏見が強い」というのが松中代表の実感だ。

「スピードやパワーといった男性性の強さがスポーツの特徴で、ピラミッドの頂点は大抵、異性愛の男性です。そうすると同性愛の方、バイセクシュアルの方は馬鹿にされたり、イジメにあったりしやすいんです。男女別競技では、トランスジェンダーの方々の居場所がない状況も続いています」

 男女できっちりと競技が分かれ、「男性性の強い男性」が重宝されるスポーツ界において、LGBTQの当事者は抑圧を受けやすい。事実として「スポーツへのアクセスがないLGBTQの子たちは多い」(松中代表)という。

 誰もが安心して楽しめるスポーツ界は、まだ実現していない。

 だからこそ協力的なラグビー界に、松中さんは感謝している。

 ラグビー界では2015年、国際統括団体「ワールドラグビー」が国際団体「国際ゲイラグビー」と、LGBTQへの差別や偏見をなくしていくための取組みを行うMOU(了解覚書)を交わしている。日本ラグビーフットボール協会も2019年に同様のMOUを取り交わした。

 ラグビー界には同性愛を公表している有名人もいる。

 プライドハウス東京レガシーに来館したこともある元ウェールズ代表主将のガレス・トーマスさん。2019年ワールドカップの開幕戦日本×ロシアで笛を吹いた、世界的レフリーのナイジェル・オーウェンズさん。

 そして日本では、女子日本代表のキャップを保持する村上愛梨が同性愛を公表した。

「村上選手は素敵なキャラクターでみんなから愛されています。こういう方が勇気を出してカミングアウトしてくださったことは、ラグビー界とってポジティブなことだと思います」

 そんな村上が配っていたパンフレットのひとつ『誰も排除しないスポーツ環境づくりのためのハンドブック』。その巻頭言に、プライドハウス東京のコメントとして素敵な言葉が載っていた。

「みんながスポーツを楽しむことのできる社会づくりは、みんなが生きやすい社会づくりにつながります。スポーツが社会のためにできることを、みんなで考えていきましょう」

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