NZの英雄キアラン・リード、引退表明。トヨタでラグビー選手生活にピリオド。「心から感謝」
世界最高のナンバー8と呼ばれたキアラン・リードが、引退を表明した。プロラグビー選手としてのキャリアは約15年。最後は、トヨタ自動車ヴェルブリッツで現役生活を終えた。
2021年5月15日。ジャパンラグビートップリーグのプレーオフトーナメント準決勝でパナソニック ワイルドナイツに21-48で敗れ、これがラストゲームとなった。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で東大阪市花園ラグビー場は無観客となり、さびしい舞台となったが、茂野海人とともに共同主将を務めてヴェルブリッツをけん引してきた35歳の背番号8は、チームメイトに何かを伝えるかのように、80分間フル出場で戦いを終えた。
「とても惜しい試合でした。最後まであきらめずに戦い続けたチームを誇りに思います。選手としての生活は今日で最後。今後はニュージーランドに帰国して、家族と一緒に過ごすのを楽しみにしています。今シーズン、家族と会えないことを非常につらく思っていました。選手としては、これで終わりです」
リードはニュージーランド代表(オールブラックス)として歴代3位の127キャップを誇る。そのうち52試合で世界最強と呼ばれる黒衣軍のキャプテンを務めた。2011年には自国で開催されたワールドカップで悲願の優勝に大きく貢献。2015年大会でも中心選手として活躍し、ワールドカップ連覇を成し遂げた。そして、2019年に日本で開催された大舞台ではキャプテンとしてオールブラックスを率い、栄冠に輝くことはなかったが、東京スタジアムでおこなわれた3位決定戦で最後の“ハカ”を披露し、誇り高く戦い、銅メダルを胸に笑顔でオールブラックスでのキャリアを終えていた。
2013年にはワールドラグビーの年間最優秀選手賞に選ばれ、2020年にはニュージーランド・メリット勲章(ONZM)を授与されている。
スーパーラグビーではクルセイダーズ一筋で、通算156試合に出場し、4度優勝を遂げた。
2019年のワールドカップを最後にニュージーランド代表から退くことを決めた世界最高のナンバー8に対し、海外の多くのクラブが獲得に動いたが、リードが選んだのは日本のトヨタ自動車ヴェルブリッツだった。
「トヨタクラブの一員として日本文化に浸る素晴らしい機会を提供してもらいました。私の家族と私は海外での経験を楽しみにしています」
入団発表後の会見でそうコメントしていたリード。残念ながら、昨年から世界中を苦しめている新型コロナウイルスの影響で、当初描いていたような生活を日本で満喫することはできなかったかもしれないが、ヴェルブリッツに多くのものを遺し、日本ラグビー界の発展にも大きく寄与したことは間違いない。
2020-2021シーズンは、長年のライバルだったオーストラリア代表主将のマイケル・フーパーがヴェルブリッツに加わり、チームメイトになって世界的にも話題となった。「ラグビー人生のなかで、まさかこういう機会があるとは想像もしていなかった」という2人は、お互いを尊敬し、ともに体を張ってチームをベスト4に導いた。
コロナ禍で残念だったのは、チームメイトであっても普段の生活を制限されたこと。今季開幕前、フーパーの入団について感想を求められたリードは「本当だったら、一緒にお酒を飲んだり、食事をしたりして会話を楽しみたいところですが……」と語っていたが、ラグビーフィールド内外での許された時間でしっかりと友情を育み、ラストゲーム後の会見はフーパーと2人で出席し、ヴェルブリッツでの思い出をかみしめていた。
「日本でのラグビーはとても楽しかったです。日本中のトヨタのファン、サポーターの皆さんに心からお礼を申し上げたいです。残念ながら昨今の状況においてはスタジアムを満員にするのはかないませんでしたが、皆さんを笑顔にできたことも多かったと思います。すべての方々のサポートに、本当に心から感謝申し上げます」