近鉄ゲニア、下剋上促す美技の背景語る。「乱れても、いいキックになる」
ゆったりと歩く。
群青と臙脂の仲間の輪へやや遅れて入ったのはウィル・ゲニアだ。オーストラリア代表110キャップ(代表戦出場数)のSHは、日本の近鉄で2年目を迎えていた。4月18日は東京の秩父宮ラグビー場で、トップリーグのプレーオフ1回戦に挑む。
下部のトップチャレンジリーグから参戦しながら、結局、宗像サニックスを相手に下剋上を果たす。31-21。
「オフ・ザ・ボールの動き、よかったです。チーム全員が力を合わせてこの試合に挑めた。このチームに属していることを誇らしく思えます」
後半4分以降は味方が退場処分を受け、1人少ない状況に置かれていた。ここでリスクを最小化したのが、攻めの起点たるゲニアだった。オーストラリア代表70キャップでSOのクウェイド・クーパーと呼吸を合わせ、接点へ真後ろから駆け込んでは確実に球を握り、時折、自ら仕掛けながら、待ち構えた受け手の一歩前にパスを放つ。安全第一の試合運びで、向こうの攻撃時間を削る。
「仮想のシナリオを練習で準備していた。例えば、バックロー(FW第3列)が抜けた時、SO(司令塔)が抜けた時にどう試合を終了させるかなどです。それらを練習で準備していたから、きょうも焦らずにプレーできました」
陣地の取り合いでも光る。
決定的な一打が放たれたのは、後半33分頃。24-21とわずかにリードしていたチームはこの時、キックの捕球を経て敵陣10メートル線付近でラックを連取していた。6フェーズ目までは着実にパスを回していたゲニアは、7フェーズ目で一転、上空へ蹴り上げる。
このハイパントは敵陣22メートルエリア左へ飛び、宗像サニックスの後衛2人はお見合い。落下地点へ首尾よく迫っていたのは、近鉄のチェイサー(キックの弾道を追うチェイスを実施した選手)の2選手だった。
そのうちの1人、WTBの片岡涼亮が宝物を手中に収める。走る。直後のゴールキック成功で10点差をつける。
殊勲の背番号9は、己の技能への自信をにじませつつ片岡を称える。
「相手の裏のスペースを確認でき、そこに蹴り込めばチャンスがあると判断しました。あとは自分のスキルを信頼し、スペースを獲得するために自分のキックスキルを活かそうと思い、蹴り込みました。そこへ反応し、チェイスしてくれた片岡選手は能力の高いチェイサーです。私とコネクションして、いいチェイスをしてスコアができた。うちらのクラブで言われていることがあります。『キックが乱れたとしても、キックチェイスがよければ(捕球役に圧力をかけられるために)結果としていいキックになる』。片岡はいつも(鋭いチェイスで)それを実現してくれるから、自分も自信を持って蹴れます」
ノーサイドが近づくと、ゲニアは防御の穴を埋めてハーフ線付近でインターセプト。手にしたボールを足に当て、右奥へ転がす。LOのマイケル・ストーバーク ゲーム主将のチェイスと相まって、敵陣深い位置で攻撃権を獲得。終了のホーンを聞き、無事にプレーを切ったのだった。
「自分でも防御のフロントラインで空いている穴を埋めるように心を配りました。そのためディフェンスラインはそこまで崩れなかった。何よりお互いのためにハードワークをしようと思えたからこそ、いい形で試合を締められた」
ウォーミングアップ時は輪の中心で激しく訓示していた33歳。キックオフの瞬間はマイペースで迎え、数的不利を強いられても「お互いのためにハードワークを」と内なる軸を保ち白星をつかんだ。立場的に格上にあたるクラブとの大一番にあって、格調の高い試合を数多く経験してきた戦士がその価値を示した。
25日の2回戦はホームの東大阪市花園ラグビー場であり、相手は優勝候補のパナソニックとなる。ゲニアのハンドルさばきが一層、注視されよう。
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