いろんな声と案。トップリーグのレベル向上にレフリングも追いつかなければ
ワールドクラスの選手たちが大勢やって来て盛り上がる今季のトップリーグ。接戦の試合も少なくない。
リコーブラックラムズは4月4日に秩父宮ラグビー場でおこなわれたNEC戦で今季2勝目を挙げた(37-15)。風下だった前半をうまく戦い、快勝を手にした。
リコーにとっては4試合ぶりの勝利だった。
低迷していたのではない。
今季2戦目のヤマハ発動機戦に23-22と競り勝った後、NTTドコモに17-22、神戸製鋼に19-20、キヤノンに28-31と惜敗を繰り返した。競争力の高まったリーグの中でもがいて勝ちを掴んだ。
この試合でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたのがFLブロードハースト マイケルだった。
2015年ワールドカップの日本代表メンバーで、南アフリカを破った試合にも先発した。2009年シーズンに来日してクボタでプレー。翌年リコーに移籍し、黒いジャージーを着て今季で11年目になる。
日本ラグビーに長く身を置いているだけに、トップリーグの進化を直に感じている。「日本のラグビーのことを知っている人も増えてきました。情報量が増し、観戦者も増加した。そのことによって、日本に来たい世界のトップクラスの選手たちも多くなった」と話す。
「それは、僕らの助けにもなりますし、日本の選手たちの(成長の)助けにもなっています。いまのトップリーグには、簡単に倒せる相手はいない。良い(環境や戦力に恵まれている)チームはありますが、彼らだって毎週ハードワークしないと勝てません。1位が15位に勝つにもハードワークが必要。これ(この傾向)は(これからも続き)もっと良くなるでしょう。レベルの高い選手、コーチがやって来ることで、日本人選手の力も高まっていくと思います」
年を追うごとにプレーレベルが高まってきた。同選手は、リーグの進化に確信を得ている。
その一方で、選手のパフォーマンスが上がるスピードに比べ、レフリングの進化の速度は、それに追いついていないのではないか。そう問われるとブロードハーストは、「それに関しては、コメントしていいか分からないな」と前置きした後、言葉を選んで話した。
「(レフリーは)試合後に、良いパフォーマンスだったのか、悪かったのか、勉強会のようなものを積極的にやったらいいと思います。自分に厳しく見直すことも必要でしょう。ニュージーランドやオーストラリアでは、パフォーマンスが悪かった場合、数週間(レフリーの)機会が与えられないケースもあります。(日本では)そういうのはないのかな。選手が良くなるのと一緒で、外国からレフリーを招くのもいいかもしれません。教えてもらったり、一緒にやっていくのは成長につながる。以前は、そうしていましたよね。(今季はコロナ禍で招聘は無理だが)あれはよかった。(日本のレフリーたちは)自分たちのベンチマークを見ることもできる」
今季のトップリーグは、若いレフリーが笛を吹くケースが増えている。
来年から新リーグが始まる。国内シーンのさらなる充実は不可欠。今季は、将来を担うレフリーに経験を積ませる側面も持つ。
先週末におこなわれた7試合のうち、前年までにトップリーグで5試合以上笛を吹いたことがあるレフリーは2人だけだった。
経験と知識がレフリングの両輪なら、現在のトップリーグ担当レフリーの多くは、前者が不足しているのは明らかだ。試合レベルを高くする選手たちが苛立つシーンも多く見られる。
ファーストスクラムに時間がかかるケースは少なくないが、4月4日の試合の中には、そこに4分以上を費やすものもあった。
リコー×NECでは、明らかなレイトタックル(チャージ)が見逃されたシーンもあったように見えた。パスをした後にコンタクトされた選手は倒れ(痛み)、仲間もアピールしたが見過ごされた。
2023年のワールドカップまで残り2年半となっている中、チーム強化のロードマップを描く藤井雄一郎ナショナルチームディレクター(以下、NTD)は、国内シーンの充実は不可欠と話す。
残り時間に戦えるテストマッチの数は限られている。国内シーズンは、今季を終えると2季。選手たちが成長する機会、選考の機会とも、そう多くはないからだ。
そんな状況を踏まえて今季のトップリーグを見つめた時、(ラグビーマガジン5月号の取材に答えて)藤井NTDは、選手たちに高いディシプリンを求めつつ、レフリングについてこう話した。
「レフリングがローカルです(国内特有の傾向)。試合によって(基準が)違うし、人によって違う。それではインターナショナルの笛に沿ったプレーもできなければ、スレスレのプレーへのチャレンジもできない。(レフリングの)レベルをあげないといけない。今シーズンにはもう間に合わないでしょうが、来シーズンは海外レフリーを呼ぶなど。強化サイドからのアプローチも必要となってくるかもしれません」
トップリーグ、レフリー部門だけでなく、日本ラグビー全体で取り組むべき分野だ。
それぞれのレフリーに経験を積ませることは成長に不可欠も、その機会を与えるだけでなく、正しい知識を得る術を個人に委ねず、組織として共有する必要もある。
レベルの高まる国内シーンをさらに盛り上げ、選手たちが国際規格の中でプレーできるようにするためにも、誰もが納得できる笛の音が待たれる。