謙虚なフーパーから謙虚に学ぶ。トヨタ自動車・吉田杏は「勝ちにどん欲に」。
己の働き場に強力なライバルが集まる。トヨタ自動車の吉田杏は、そのライバルから多くを学ぼうと頭を切り替えた。
「そういった選手のなかで、自分に足りないものを吸収し、日々、練習で積み上げていった」
2月20日、国内トップリーグが開幕した。トヨタ自動車は愛知・パロマ瑞穂ラグビー場で東芝に34-33で辛勝。FW第3列では2年目で元ニュージーランド代表主将のキアラン・リード共同主将を先発させ、新加入で現オーストラリア代表主将のマイケル・フーパーをベンチから送り出した。分厚い選手層を示した。
2018年の入部から多くの出番を得てきた25歳の吉田は、登録メンバーに入れなかった。それでも腐らない。襟を正す背景には、4歳年上のフーパーの性格もあったのだろうか。吉田は述懐する。
「彼は105キャップ(代表戦出場数)のすごい選手にもかかわらず、謙虚。グラウンドの片付けも率先してやっています。いままで会ってきた代表の海外選手がそういったことをしているのを、見たことがなかった。一流のプレーヤーというのは、いい人というか、尊敬できるなと」
その「尊敬」できる戦士と一緒に練習できるのが、いまトヨタ自動車にいるメリットのひとつだ。
フーパーが身長182センチ、体重101キロと、国際舞台にあっては低い姿勢での働きが期待されるのに対し、吉田は身長187センチ、体重107キロと国内にあっては大柄だ。コンタクト時にもっとも力を発揮できる高さ、姿勢はそれぞれ異なる。
それでも吉田は、相手を仕留めるタックル、接点の球へ絡むジャッカルに関して助言をもらう。「(相手への)足の運び、テクニック、ボールをもぎ取るスキルや集中力…」。世界的な名手の知見を吸収し、自分流にカスタマイズする。
「フーパーと最初に話した時、『自分は小さいから、低い、泥臭いプレーをやらないと戦えない』と言っていました。僕もそれを見習って、タックル、ブレイクダウン(接点での動き)を学んでいます」
チャンスをつかむ。NTTコムとの第2節で、故障者発生による繰り上げの形で背番号19をつかむ。
宮城・ユアテックスタジアム仙台で後半29分に登場すると、3分後には持ち味の突進力を活かしてトライを決める。その後はフーパー直伝かもしれぬジャッカルを繰り出し、NTTコムの反則を誘う。
47-29で開幕2連勝を飾ると、第3節以降は4戦連続で先発。そのうち3試合は本職のFLに入り、攻守で力強さを示す。
4月7日、オンライン取材で充実ぶりを語る。
「ここ数試合、ジャッカルを決めていますが、そこでは練習してきたことができている部分もあった。そこはよかったと思います」
さかのぼって2017年度には、帝京大の4年生として大学選手権9連覇を達成。卒業後にトヨタ自動車へ進んだのは、大学の1学年上で親交の深かった姫野和樹が先にプレーしていたからだ。
姫野はルーキーイヤーに主将となって新人賞を獲得し、日本代表として2019年のワールドカップ日本大会で活躍。現在はニュージーランドのハイランダーズへ期限付きで移り、スーパ―ラグビー アオテアロアで躍動している。吉田は姫野と「一緒に成長して、また一緒にプレーしよう」と定期的に連絡を取り合い、お互いの試合の感想を伝え合っている。
4月11日には大阪・東大阪市花園ラグビー場で、クボタとの第7節を迎える。ここまで5勝1敗。後半の失点が多いというチームの課題について、吉田は当事者意識を持って語る。
「後半になるにつれて役割を果たせない(選手がいる)とヘッドコーチも言っている。80分間、粘り強く役割を果たす必要があります。個人としてはそれに加えて自分自身の強みを出し切る。体力的な問題ではないとは思います。ただ、リザーブから入ってきた選手(と先発選手)の連係が合わなかったりするなかで、ミスが起きる…と。ミスがない試合はないので、ミスを(周りの選手が)カバーして、全員で勝ちにどん欲になっていきたいです」
2020年には日本のサンウルブズの一員としてスーパーラグビーへ挑んだ吉田。いずれは姫野と日本代表として世界へ挑めるよう、部内の世界的選手と切磋琢磨する。人一倍、働く。
▼「トップリーグ2021」特設ページはコチラ
https://rugby-rp.com/topleague