【ラグリパWest】教員は天職。 大峯功三[福岡県立北筑高校]
大峯功三は今、コーチングの醍醐味に浸っている。
早稲田の主将、コーチ時代は日本一を目指した。ラグビー部は大学選手権を制すること最多16回。ライバル・明治を3上回る。当時は手の位置、つま先の向きまでこだわった。
現在のスタート地点は決まっている。
「ボールは前に投げてはいけないよ」
28歳の元LOは昨春、北九州にある北筑に赴任した。保健・体育の正教員一年生は、監督として高校の初心者と向き合っている。
勝利至上から抜ける。できなかったことができる成長に喜びを見いだす。
「すごく幸せです。彼らとラグビーができて。早稲田にいたら巡り合っていません」
北筑の選手は17人(新3年=10、新2年=7)。そのうち経験者は5人のみ。
近くには、中鶴や帆柱などラグビースクールはあるが、中学生は強豪校に流れる。県の新人戦(兼九州大会予選)、香椎を24−5で破ったが、修猷館に5−78と大敗した。
この大会直前の12月、ケガ人が出る。大峯は15人を集めるため、植木悠聖に声をかける。副担任をする1年生のクラスにいた。昨年9月までは野球部だった。
162センチの植木はWTBで出場する。
「ラグビーは楽しいです。全員とつながっていることを実感できます。ボールが出なければ、2人、3人と助けに行きます」
チームは植木のおかげで棄権せずにすんだ。
植木のジャージーやヘッドギアは大峯をはじめみんなで用意した。
「先生は優しいです。WTBは端っこにいて、つないできたボールを取りなさい、そして突っ走れ、とシンプルに教えてくれました」
大峯には感謝がある。
「よく入部してきてくれました。コンタクトへの怖さは当然ありますが、楽しさに気づいてもらえるように教えていきたいです」
当面の危機を救った植木はラグビーの継続を悩む。その指導力が試される。
時折、自問自答する。
ラグビーの魅力を伝えられているか—。
「多様性と自己犠牲だと思っています」
さまざまな境涯の子がお互いを認める。そして利他の心を持つ。それらを教え切れれば、実社会に出て困ることはない。
大峯はラグビーで結ばれた昔の仲間の消息を母校に限らず気にかける。
古瀬鈴之佑(こせ・すずのすけ)。中鶴の中学時代、県選抜でチームメイトになった。警察官になり、2年前、襲撃の速報を受けた時には布巻峻介に知らせた。大峯にとって、この選抜でも早稲田でも同期になる布巻は、日本代表の合宿で宮崎にいた。すぐにメンバーと動画を作り、回復へのエールを送っている。