国内 2021.03.03

神戸製鋼73得点の背景。殊勲のベン・スミスは普段から献身的。

[ 向 風見也 ]
神戸製鋼73得点の背景。殊勲のベン・スミスは普段から献身的。
11年を超えるオールブラックス選出歴。ベン・スミス34歳、神戸にいる(撮影:石井愛子)


 本当に素晴らしいものの素晴らしさを伝える時ほど、その言葉が平易になる。

 神戸製鋼のNO8でこの午後5トライのナエアタ ルイは、マン・オブ・ザ・マッチを獲得するや簡潔に言った。

「ピッチ上の15人がハードワークしてくれたことで、自分がトライを取れたんです」

 2月28日、兵庫・神戸ユニバー記念競技場でキヤノンを73-10で下した。国内トップリーグの第2節である。

 登録メンバー23名の総キャップ数(代表戦出場数)で相手より233も多い318という豪華戦力は、一枚岩となっていたからこそ挑戦者にとって厄介だった。

 接点から球を受けたFWのユニットが左右にパスをさばいたり、司令塔団の間にブラインドWTBが駆け込んだり、接点の真上を大型選手が突っ走ったり。

「いいトレーニングをしているんだと思いますし、選手のスキルレベルも高い」

 こう認めるのは、元日本代表コーチングコーディネーターでもあるキヤノンの沢木敬介監督だ。自軍について「うまい、へた、じゃなくて、チャレンジする姿勢が見たかったんですが、残念ながら見られなかった。全てで、ですよ。(勝負の)土俵にあがる以前の問題」と断じたうえで、向こうのパフォーマンスから日々の「トレーニング」を想像する。

 見立ては当たる。FLで先発して勝利のトム・フランクリン共同主将は、くしくもかく語った。

「自分たちができるプレーはすべて、練習のなかにあるものです。練習から自分たちをどれだけ追い込み、タフなチョイスをしながら、同じビジョンを見るようにしています。だから、試合でもそれができるんです。偶然に起きたことはありません」

 敗軍でゲーム主将だったSHの田中史朗は、「こっちがミスした後のターンオーバーからのアタックがよかった」。頭にあったのは、神戸製鋼が21-3とリードして迎えた前半39分頃のことだろう。

 自陣ゴール前左でキヤノンがラインアウトでエラーするや、神戸製鋼は落ちた球を拾って右大外へ展開する。日本代表FBの山中亮平が駆け上がる。

 ハーフ線周辺に入る。今度はCTBのアタアタ・モエアキオラが左中間でバトンを受け継ぎ、ラインブレイク。SHの徳田健太のトライとSOのヘイデン・パーカーのゴールキック成功で、スコアを28-3とした。先方へ傾きかけた流れを、一気に取り戻した。

 田中にこう言わしめた。

「僕たちのコミュニケーションのなさと、神戸製鋼さんのスキルの高さを感じました」

 2018年度に王者となり、リーグ不成立となったトップリーグ2020も6戦全勝。元ニュージーランド代表アシスタントコートのウェイン・スミス総監督のもとで忠誠心と圧力下での技巧を磨いてきた戦士たちは、2月20日、大阪・東大阪市花園ラグビー場での開幕節で苦しんだ。47-38。昨季全敗のNECと望まぬ打ち合いを演じた。

 本来の開幕直前にあたる1月中旬に新型コロナウイルスのクラスターを発生させ、約2週間、活動を止めていた。関係者によると「自粛明けから一気に(強度などを)上げ、疲労をためたところで開幕を迎えた現状がある」。ここから各自の役割分担を見直し、キヤノン戦は快勝した。デーブ・ディロン ヘッドコーチはこの7日間を振り返り、明るく締める。

「先週は雑な部分が多かった。(開幕まで)なかなか試合ができていない状態で、あの、様子だったんです。コーチングスタッフ、選手は、それを踏まえて今週をスタートさせました。結果、最初から最後までいい姿勢を持ってくれた」

 ニュージーランド代表LOのブロディ・レタリックは、モールの核としてチームの1、2本目のトライを促したうえに自軍キックオフの捕球、鋭い出足の防御、突破役に並走しての得点でも魅する。

 モエアキオラ、ラファエレ ティモシーの日本代表CTBコンビは、対面の真正面を向きながら外へさばくパスで好機を演出。早期のジャパン入りが待たれるナエアタは、密集戦でも存在感があった。

 規則的に回る惑星系にあって、ひときわ愛好家を唸らせたのはWTBのベン・スミスか。

 序盤、自身の後ろへ絶妙なキックが蹴られたかのように見せ、余裕を持ちカバー。球を拾うや、トップスピードで迫る防御をかわす。まもなく神戸製鋼はペナルティキックを敵陣深い位置へ運び、やがて先制トライを奪った。

 昨年11月に入りたてというニュージーランド代表84キャップの名脇役は、後半12分にも防御を引き付けながらのパス、抜け出した味方への援護で自陣からの攻めを円滑化。パーカーのトライをお膳立てした。

 献身的なのは普段の練習時から同じのようで、内部のスタッフは「いつも日本人選手に声をかける。ダン・カーターみたいにやってくれています」。昨季まで在籍して今季限りで引退の元ニュージーランド代表SOを引き合いに出し、新たな顔役を称えた。

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