コラム 2020.09.09

ラグビー金言【27】90分しかないのなら、91分やったらぶっ倒れる練習を考える。

[ 編集部 ]
ラグビー金言【27】90分しかないのなら、91分やったらぶっ倒れる練習を考える。
オリジナルのラグビーカルチャーを作り上げる静岡聖光学園(撮影/松本かおり)



 大手広告代理店でバリバリ働いていた20代。
 大学院を経て2007年、34歳で静岡聖光学院中学校・高校の教員となり、ラグビー部の監督に就いたのが星野明宏さんだ。現在は同校の校長を務め、ラグビー部のアドバイザーとして活動をサポートする。

 12人しかいなかった同部を3年で花園に導く道は、自分たちの立ち位置と目標への距離を正確に把握することから始まった。環境を嘆かぬ人は、創意工夫で自分たちのスタイルを確立したから成功を得た。刺激的な人生。魅力的なコーチング。
 そのサクセスストーリーは特別なことではなく、誰でも真似ることができる。だから多くの人の共感を得る。

 1973年3月4日生まれ。東京都町田市の出身。
 桐蔭学園中、同高校から立命館大学に進学し、電通に入社した。筑波大学の大学院を経て、静岡聖光学院の教壇に立つ。監督就任3年目で花園なんて夢の夢だったチームを、晴れ舞台に連れて行った。
 1日60分の練習時間でチームを花園常連校に育て上げた指導法の原点は、現状を嘆かず、工夫をして、選手たちのマインドセットを変えることだった。

【星野明宏の金言】

 3月から10月は火曜と木曜が90分で、土曜が長くて120分。11月から2月が火曜と木曜が60分で土曜が90分。これが校則で決まっている部活動に許される時間だ。赴任当時は、ウォームアップで体が温まってきたところで終了時間を迎えることもあった。
 校則は学校内の法律だ。嘆いていても仕方ない。その中でやれることをやり切ろうと考えた。
「90分しかない。そんなふうにぼやいていても何も生まれないと考えました。90分しかやれないのなら、91分やったらぶっ倒れる練習を考えることにしました」

 細部にこだわった。5〜10回もある水飲みや、指示伝達時の集合時間ももったいなかった。だから、それらのときはダッシュが基本。そして普通なら最後にスピードを緩めるのが当たり前だが、タックルやブレイクダウンではトップスピードのまま低い姿勢になるのだからと、ある決まりを作った。
 集合の号令がかかり円陣を組むときは、スピードを落とさぬまま集まり、最後は低くかがむ。そう決めたのだ。
「だからうちのチームの集合時にはもうもうと砂ぼこりが舞う」
 他のチームなら休息となる時間が、ちょっとしたことでトレーニングに変わった。

 練習中の給水の時間に選手同士、互いに話す中身にもこだわった。コミュニケーション能力を高めるためだ。「短い時間に問題点を抽出して、50秒後にはチームをより良くしよう」と呼びかけた。
「トライを取られた後にインゴールで円陣を組み、いろいろ意見を出し合ったのに、最後に『さあ気合い入れて行きましょう』ではダメだ、と。出た意見を集約して、よし、こうしようという結論まで出さないと意味がないよ、と。そこまでを約束しました」

 90分で足も、心肺も、頭の中もパンパンにする。
「『週に3日、90分ずつしかできないよ』でなく、『あんなことを毎日なんてできないよ』と。それぐらい密度を濃くしました」

 自身の考えと歩んできた道を理路整然と話す星野先生は名将・大西鐵之祐(元日本代表監督、元早大監督、元早大学院総監督)の考えに共感すると前置きして言う。
「勝負は理屈じゃない。最後にそう言い放てるようにロジックを積み上げています」

 勝負の世界で生きることがたまらなく好きだ。ラグビーの教育的価値も深く知っている。だから、このスポーツをもっとポピュラーなものにしたい。
 多くの人がいまの日本にはラグビーが必要、教育にラグビーがいいと知っているし、口にしている。しかし、「安全だったらラグビーをやらせたいのに」という人が多いのも事実で、その壁を乗り越えてはいない。
 不安要素を感じている人たちを説得できるロジックを持ち、腑に落ちるような形を示さないといけないのに、「それは無理と、多くの人が勝手に諦めている」ようにも感じる。

「どこかのラグビー部の監督の中に、『うちの校長とは考えが合わなくて…』と嘆く人がいるとしましょう。その人は、校長を国の王様に置き換えたとしたらどうするのでしょう。うちの国王は理解がなくて…と言うなら、もう諦めるしかない。それでは、いつまで経っても何も変わらない。王様の気持ちが変わるように何とかアプローチしていかなきゃいけない」


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