ワールドカップ 2020.01.29

中村亮土が語るシックス・ネーションズ 「宿敵とともに口ずさんだアイルランズ・コール」

欧州、伝統、重厚感。いよいよ2月1日にシックス・ネーションズが開幕する。欧州6か国が繰り広げるこのマッチ・シリーズを、日本ラグビー界を代表する5人に思い入れや見どころなどを聞いていく短期連載。第4回目は、2019年ラグビーワールドカップ日本大会で活躍した中村亮土の登場だ。ミッドフィールドで体を張り、前に出た。判断よくパスを散らし、トライを呼ぶ場面も。シックス・ネーションズのうちの2チーム、アイルランド、スコットランドのバックスと駆け引きし、体をぶつけ合った男に、世界の舞台で得たシックス・ネーションズ参加国の体感を伝えてもらおう。

[ 編集部 ]
中村亮土が語るシックス・ネーションズ 「宿敵とともに口ずさんだアイルランズ・コール」
ワールドカップで直に感じた強豪の力。中村は当時の裏話も交えながらシックス・ネーションズを展望してくれた (photo:松本かおり)

■初めて見た時、グッときた

 日本中を熱狂させたワールドカップでのことだ。

 中村亮土はアイルランドとの決戦までの1週間、ある曲を口ずさんで過ごした。キックオフ直前、相手チームのナショナルアンセムの時も。

「(高校生だった)2007年のワールドカップの時、生まれて初めて見た海外の試合がアイルランドの試合でした。テレビ観戦でしたが、選手たちが『アイルランズ・コール』を気持ちを込め、大声で歌っていた。それを見てグッとくるものがありました。カッコいいな、と脳裏に刻まれました 」

 そんな記憶があったから、2019年のワールドカップでアイルランドと対戦すると決まって胸が高鳴った。

「(前戦の)ロシア戦が終わってからの準備期間、楽しみで、楽しみで、練習中にもついアイルランズ・コールが口から出ていました。試合前も、相手が歌うのと一緒に口ずさんでいました(笑)」

 そんな憧れの相手に勝った。

 試合後の疲労といったら「これまでにない疲れ」だったけれど、最高の気分だった。

 アイルランドはワールドカップ前に世界1位になった強豪だ。最強の相手と戦うのだから、日本代表は徹底的に分析してグリーンのジャージとの試合を迎えた。

「ラグビーの王道を突き進んでくる。それがアイルランドです。強力なセットプレーから試合を組み立てる。そして9番(コナー・マレー)と10番(ジョナサン・セクストン)のチーム。スペシャルなことをやってくるというより、自分たちの強みをよく知っていて、変なことはしない。ディフェンスも強い」

 隙などないように見える相手に日本代表は勝った。

「まずフォワードが頑張ってくれた。相手の強みをひとつ消してくれたことが大きかったですね。あの試合は(正SOの)セクストンとCTBバンディー・アキが出ていなかったのですが、出場していた10番のジャック・カーティーも悪くはなかった。いいプレーもしたし、ゲームメイクもうまかったと思います。ただ、彼本人に怖さはなかった。アキがいたらまた違ったとも思います。10番までがしっかりしている分、Xファクターがいると怖いチームでしたから」

 あの試合でもっとも手強かったのはトイメンのギャリー・リングローズだった。「ハイボールキャッチもうまかった。彼がいなかったら、もっとラクに勝てたと思います」と振り返る。

 そのリングローズとはジャージを交換した。試合後、あちらのロッカールームはお通夜のようだと聞いた。だから自分から出向き、健闘を称え合った。

憧れのアイルランドに対し、勇猛果敢にタックルに向かう中村
(photo : Getty Images)

■スコットランドには波がある

 ワールドカップでは、悲願のベスト8進出を決めるプールマッチ最終戦でスコットランドとも戦った。2019年のシックス・ネーションズ、イングランド戦で、0-31から38-38の引き分けに持ち込む爆発力を見せた相手だ。

「勢いにのるとめちゃくちゃ強い。そういう前提で戦いました。だから、キーマンの9番(グレイグ・レイドロー/ワールドカップ後テストマッチレベルからは引退)、10番(フィン・ラッセル)、15番(スチュアート・ホッグ)に自由を与えないこと、考える時間を与えないことが大事だった。そのためにはフォワードがセットプレーで互角以上に戦い、プレーメイカーにプレッシャーを与えることが必要だった」

 戦前に立てたプランを実践できたから勝てた。それでも接戦になったのは伝統国の底力だ。

 ただ、あの日、以前からスコットランドの課題だった「波」はそのままだった。だから日本代表が勝利をつかんだ。

「勢いがあるとき、ないときの波が大きいので、大会の上位に行けないのがスコットランドです。良ければオールブラックスやイングランドにも肉薄できるのに、波が試合の中でも見られる。それが昨年のイングランド戦だし、ジャパン戦でした。

 ワールドカップでは後半の最初に少し点差が開きましたが、安心できませんでした。そして、やっぱりもの凄い反撃の時間帯があった。ただ、プレッシャーをかけ続けていたので、相手の(SO)ラッセルを、(パスは)ここにしか放れない、これしかできないというマインドに追い込めていたとは思います」

 そんな駆け引き、体のぶつけ合いが楽しくて、後半34分に松田力也と交代してベンチに下がる時には「もっとやりたいな」と感じた。

 日本代表にとって史上最大の激戦を心底楽しんだ。

■注目は、イングランドのファレル

 シックス・ネーションズ参加国の中でワールドカップ時に対戦したのはアイルランド、スコットランドだけだが、中村は、2018年の11月にはイングランドとも戦っている。敵地トゥイッケナムに乗り込み、8万を超える観衆の前に立ち、自分でトライも決めた。

 せせり立つスタンドから襲ってくる大声援をこう感じた。

「一人ひとりが声を出しているので、それが地鳴りのような響きになって伝わってくるんです。もの凄い雰囲気でした」

 試合後のアフターマッチファンクションは、両チームの選手ともスーツ着用の着席ディナー。多くの関係者も集まってのパーティーのような雰囲気で、ラグビーの母国である伝統と格式の高さが伝わった。

 前半は15-10とリードも、終わってみれば15-35と敗れた試合の記憶も鮮明だ。白いジャージの集団はスマートだった。

「スキルの高さが印象的です。ラグビーが分かっている。ここでこうやったら、こうなる。チームとして考えながらプレーしていました。スキルを使おうとする意識が強い。

 途中からオーウェン・ファレル(SO/CTB)が出てきたのですが、頭の中、コンタクトも含めて万能です。チームの支柱。彼が入るとチームが変わる。ジャパンで言うとリーチ(マイケルのような存在)です」

 中村は、2020年のシックス・ネーションズの注目選手に、そのファレルの名を挙げる。

「最近の12番は、2つのタイプに分けられます。ボールキャリーに強みを見せる、フィジカルに特化したタイプ。そして、ゲームをコントロールしながら接点でも戦える選手。各チームとも後者のタイプが必要なのですが、あまりいない。その中で、ファレルは後者の代表的な選手です。僕自身も同じタイプなので、彼のプレーを見て参考にしたいと思っています」

 フランスにも注目している。若いメンバーで構成されているトリコロールが魅力的に映る。

「いま、一番注目しているし、楽しみです。(SOロマン)ヌタマックは、まだハタチでしょう。彼以外にもみんな若く、将来性がある。ワールドカップで自信も得て勢いがありますよね。今はまだイングランドの方が上かもしれませんが、来年はひっくり返るのではないでしょうか。チームが熟成していって、次のワールドカップまできっと伸び続ける。フォワードも強力だけど、そこにこだわりすぎると良さが出てこない。ボールを動かし始めるとシャンパンラグビーを実践して、本当に厄介なチームになる」

 2023年のワールドカップフランス大会でライバルになるかもしれないチーム、選手に熱い視線を注ぎながら、伝統の大会を見つめるつもりだ。

Profile 中村亮土  [日本代表CTB /サントリーサンゴリアス]
なかむら・りょうと/178㌢、92㌔。1991年6月3日生まれ、28歳。鹿児島実業高→帝京大→サントリー7年目。2019ワールドカップ日本大会では全試合に出場

★『ラグビー欧州6カ国対抗戦 シックス・ネーションズ』

【放送日】
2/1(土)~全15試合生中継![WOWOWプライム][WOWOWライブ]

<第1節>

ウェールズvsイタリア 2/1(土)夜10:55[WOWOWプライム]※無料放送

アイルランドvsスコットランド 2/1(土)深夜1:30[WOWOWプライム]

フランスvsイングランド 2/2(日)夜11:45[WOWOWプライム]

※第2節以降の放送スケジュールはWOWOWラグビーオフィシャルサイトに随時掲載。

>WOWOWラグビーオフィシャルサイトはこちら

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