ワールドカップ 2019.09.28

アイルランド・サポーターに訊いた。どうしてラグビーアイルランド代表を応援する?

[ 多羅正崇 ]
アイルランド・サポーターに訊いた。どうしてラグビーアイルランド代表を応援する?
情熱の男たちと。全力でアイルランドをサポートする。(撮影/多羅正崇)



 その日アイルランド・サポーターは異彩を放っていた。

 9月22日に神奈川・横浜国際総合競技場で行われたプールA第1戦、アイルランド代表×スコットランド代表。

 アイルランドが27−3で快勝した雨中戦で、サポーターは7万2000人収容のスタジアムにアンセム「アイランズ・コール」を轟かせ、得点機にはひと塊の声援でチームを後押しした。

 トライ後の演出として、場内スピーカーから歌舞伎風の「ヨーッ!」という掛け声が響くと、声を合わせて「ヨーッ!」と真似てみるノリの良さ。ビール片手の緑の軍団は、会場内の盛り上がりにひと役もふた役も買っていた。

 試合後は会場外でもビール片手に大盛り上がり。新横浜でビールやスナックを店頭販売していた居酒屋店主の方は「(ビールはカップで)今日で600杯くらい売れています」と驚いていた。

 『ポケットモンスター』のピカチュウのかぶり物をしているアイルランド・サポーターがいた。3、40代とおぼしき男性に、好きなアイルランド代表選手を訊いた。

「好きな選手?(フランカーの)ピーター・オマホニー。彼はけっしてプレーを止めない。彼は動き続ける」

 日本のチームの印象も訊ねると、「日本はとても速い。とても良いランニングプレーをする。ロシアに対して良いランニングをしていたから、僕たちはとても心配している」と答えた。

 その男性の友人らしき2人もやってきた。そのうちの1人、首に国旗を巻きつけた髭の男性にも好きなアイルランド選手を訊いた。

「(SHの)コナー・マレー。彼は私たちを驚かせてくれる。パスやボックスキックに精通している。彼は偉大だ。そして(LO/FL/NO8)タイグ・バーンだ。彼の身体はすごい。ビーストだ」

 アイルランドは2016年、アメリカ・シカゴで初対戦から111年にしてニュージーランド代表“オールブラックス”から初勝利を挙げ、昨年の欧州6か国対抗も全勝優勝で制した。イングランド、スコットランド、ウェールズと共に誇り高き伝統4か国「ホームユニオン」の一角だが、過去8大会すべてに出場しているワールドカップでは、ベスト8が過去最高成績だ。
 
 そのことを訊ねると、髭の男性は熱く語った。ピカチュウのかぶり物をしていることはすっかり忘れている様子だった。

「オーケー、その通り、私たちは一度もクォーターファイナル(準々決勝)で勝ったことはない。2015年のワールドカップは南アフリカに負けた(準々決勝/19−23)。今回の南アフリカはとても、とても良い。しかしアイルランドは南アフリカを倒せる。クォーターファイナルで当たりたいね」

 クォーターファイナルで当たりたいね——。彼はアイルランドがプールA1位通過、南アフリカがプールB2位通過する場合を想定しているようだった。

 それにしても、なぜアイルランド・サポーターはこれほどアイルランド代表を熱烈に応援するのか。同じ髭の男性が教えてくれた。

「2つ理由がある。ひとつ目の理由が、一番大事だ。国をひとつにするからだ。アイルランド代表は、北アイルランドと南アイルランドのリパブリックだ。これは誰にも出来なかったことだ。だからすべてのアイルランド人はチームを愛している。この旗を見て。オレンジは北(アイルランド)。緑は南(アイルランド)。真ん中の白はピース、平和だ。アイルランドラグビーは我々をひとつにする」

 男性は1937年制定されたアイルランドの国旗を広げてみせた。

 それから2つ目の理由として、コーチの存在を挙げた。

「2つ目の理由。良いコーチがいること。ジョー・シュミットだ」

 ニュージーランド出身のジョー・シュミットHC(ヘッドコーチ)は2013年の指揮官就任後、オールブラックスを2度撃破。欧州6か国対抗戦も3度制した。
 
 それまで一度も口を挟まなかった色白の長身男性が、「彼は良いコーチだ」と割り込んできた。
 
「僕たちはシックス・ネーションズでグランドスラムをした。彼(シュミットHC)は勝利の文化をアイルランドにもたらした。国際レベルでの自信を与えたんだ」

 名将シュミットHCは今大会を最後にコーチ業の引退を表明している。サポーターも信頼を寄せる名将、シュミットHCのラストを見届けよう——。サポーターの熱量の一端が窺い知れた。


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