日体大のヴァイレアが大暴れする背景に、元ジャパン戦士の心配りがあった。
日本代表のLOとして1999、2003年のワールドカップに出場した田沼広之は、4月13日、千葉・アークス浦安パークを訪れていた。
この日は15人制の20歳以下(U20)日本代表を選ぶTIDキャンプ2019年度第1回合宿の練習がおこなわれていて、自身が指導する日体大のハラトア・ヴァイレアが参加していた。どうやら、トトレーニン後にヴァイレアを車に乗せるそうだ。
普段は神奈川内のキャンパスで働くレジェンドが、教え子とはいえ選手の送り迎えをするとは……。様子を知った記者が驚いていると、田沼本人は「いや……」と事情を説明した。
ヴァイレアは14日、TIDキャンプのセッションをスキップし、東京・秩父宮ラグビー場での東日本大学セブンズへ日体大の選手として出場するとのこと。身長182センチ、体重95キロの大型バックスリーのヴァイレアは、昨季からU20日本代表に選ばれると同時に7人制でも適性が見込まれている。日体大にはオリンピアン輩出への潜在的なニーズがあり、東日本大学セブンズにはユース世代の7人制代表のスタッフが視察へ来ると見られていた。
現役時代は声の大きなムードメーカーとして知られた田沼は、仲間の心をおもんばかる戦士だった。長らく日本ラグビー界に関わっているから、海外出身者の事情もよく知っている。さらにヴァイレアが15歳でトンガから来日した理由は、「家族のため」。田沼は、教え子に少しでも多くの選択肢を与えて卒業させたかった。
そうはいっても、体制が変わった今季のU20日本代表入りへは、TIDキャンプの全日程参加が望ましいとの見方もある。もしヴァイレアが「当確」と見られていたとしても、全ての練習に出て落選する選手のことを思えば最大限の礼は尽くさなくてはならないのではないか……。田沼は、そういう繊細な事柄に考えが及ぶ人だった。
かねてU20日本代表の首脳陣とはメールでやり取りをしていたが、「直接、顔を出すのとそうでないのとでは違う」「我々のこと(コミュニケーション不良)であいつら(教え子)の人生が変わってしまっては良くない」と、先方への挨拶も兼ねてヴァイレアを出迎えたのである。
14日、秩父宮でヴァイレアは暴れ回った。「結構、きつかったけど、ラグビーは大好きだから大丈夫」とし、後に選出されるU20日本代表への思いを語った。
「(U20日本代表は)皆、うまい。僕もいろいろと勉強して、頑張るしかないです」
TIDキャンプの35名から選抜されたU20日本代表の28名は、22日からオーストラリアでトレーニングを実施。26日からクイーンズランド・ボンド大学でのオセアニアラグビーU20チャンピオンシップに参加する。まずはU20オーストラリア代表と、3試合あるうちの1試合目をおこなう。ヴァイレアはFBとして先発する。