【コラム】永遠のテーマ
◼️コーチングしないのに選手主導って言うのはコーチングの放棄で、コーチングのできない人がする一番の言い訳ですよ。
文武両道を掲げる学校方針から、練習は週3回、60~120分ずつのみ。静岡聖光学院高等学校(静岡聖光)ラグビー部は、「時短」というキーワードで話題になることが多い。
監督である星野明宏副校長曰く「61分もできない」ような密度の濃いセッションを意識。スポーツ推薦がなく大柄な選手を集めにくいなか、大阪・東大阪市花園ラグビー場での全国高校ラグビー大会には2009年の初出場以来通算5度参加と実績を残していた。
「時短」以外の際立つ要素には、「選手主導」がある。先の年末年始の全国大会で印象的に映ったのは、ハーフタイムの過ごし方だ。この国の高校シーンではグラウンド上で檄を飛ばす指導者の姿も目立つが、静岡聖光は選手だけで話し合う。佐々木陽平監督は選手交代の責任こそ持つが、後半に向けた修正点の提示などは県予選時から教え子に委ねていた。
身長175センチでナンバーエイトに入る植田歩は「自分たちで気づいたことを言い合いながら、やること(後半に向けたフォーカスポイント)を少なく絞っていけるようになりました」。試合を重ねるごとに、話し合いの質を高めてこられたようだ。
静岡聖光の「選手主導」は、相手の得意技も封じた。12月30日、第1グラウンドでの2回戦ではシード校の岩手・黒沢尻工によるモールを何度も崩す。
立ったボール保持者を軸に複数人が固まって押すモールは、反復練習次第で最も効率的な得点方法になりうる。足場の悪い雪国のチームが好み、スマートに戦いたい静岡聖光にとっては厄介なプレーかもしれなかった。しかし当日、小柄な黒いジャージィは相手の塊を回転させたり、組み始める選手の足元に2人がかりで突き刺さったりしてしのいだ。
終盤には黒沢尻工がモールの組み方を微修正したことでトライを決めるが(ボール保持者と両サイドに立つ選手が相手に背を向けて密着し、静岡聖光の防御の入り込む隙間をなくしていた)、12―17と5点差を追う28分、静岡聖光は自陣22メートル線付近右で黒沢尻工のモール形成を未然に防いだ。
肉弾戦でのプレーを首尾よく進めるには、当日のレフリーの笛の傾向に対応しなくてはならない。「自分たちがいいと思っていたプレーで反則を取られた」と涙を流すチームは、高校ラグビーでも国際ラグビーでも一定数いる。
しかし「選手主導」が売りの静岡聖光は試合前、担当レフリーに自軍の防御方法が反則にならないか確認を取っていたという。数日前に他校がおこなった試合のモールディフェンスを映像で見せ、「僕たちもこれ、やっていいでしょうか」と打診していたのだ。
植田の「今年1年間、コーチたちにアドバイスをいただきながら自分たちで戦術などを作っていた」という言葉の延長線上に、自己責任で試合を進めるための具体的な行動があった。
ちなみに静岡聖光の試合では、グラウンドに立つ選手が交代で退く選手へ大声で「ありがとう!」と叫ぶシーンも目立った。「花園に来てからいい雰囲気でやっていたのが、そういうところに繋がったんだと思います」とは、スタンドオフでスポーツドクター志望の高成田光主将。結局この日に敗退も、成長は実感できた。
「選手主導」は、男子15人制日本代表でも重視される。ワールドカップ日本大会開催年の今年は2月4日から候補合宿を本格始動させるも、ニュージーランド出身のジェイミー・ジョセフヘッドコーチは欧州視察などを経て15日に合流。しばらく経ってからこう発した。