コラム 2019.03.21
【コラム】永遠のテーマ

【コラム】永遠のテーマ

[ 向 風見也 ]

「最初、私が不在だったことも、ある意味、大事だったと思っています。徐々にシーズンへ入っていける環境を作れた。当初からその予定でした。ヘッドコーチ不在のなか、選手たちもやりやすく感じていたと思います。コーチ陣としては、そういうなかで誰がどんなリーダーシップを取れるのかを見極めるいい機会でした」

 遡って2015年のワールドカップイングランド大会では、エディー・ジョーンズヘッドコーチの苛烈な指導で育った面々が自主的にまとまり歴史的3勝。当時のコーチングコーディネーターで前サントリー監督の沢木敬介は、「選手主導」について私見を明かす。

「ぶれちゃいけないのは、選手主導とコーチングの放棄は別ってことなんですよ。コーチングしないのに選手主導って言うのはコーチングの放棄で、コーチングのできない人がする一番の言い訳ですよ。コーチングを入れて、選手にしっかりと考えさせる、という仕方はすごくいいことだと思います。ただ、何もコーチングしないで選手主導と言っていたら、それはただのコーチングの放棄なので。僕は、そこをはき違えているコーチもいるんじゃないかとも思います」

 練習中のかすかなエラーも見逃さず声を張り上げる一方、選手同士による試合分析のミーティングも促す沢木。指導と放任の「バランス」に心を砕く人らしく、何となく流行りそうな甘美な言葉をフラットに捉えていた。

 静岡聖光でも、選手同士のミーティング方法は小寺良二リーダーシップコーチが指導していて、最大の長所だった鋭いキックチェイスとライン防御は里大輔スピードコーチ提唱の「SAT(急加速するのに最適な姿勢を確立すること)」が支えていた。具体的なコーチングと「選手主導」がシンクロしていたのだ。

 沢木が話をしたのは、結果的にサントリーを率いる最後のシーズンとなった2018年度の終盤だ。静岡聖光の事例を聞いたうえで、本当に求められている「選手主導」のチーム作りについて話す。

「選手たちが自分でやっているよ、って言わせる環境を作ることが大事なんじゃないですか。こっち(首脳陣)がコントロールをしているんだけど、選手たちには自分たちでやっていると思わせる」

 言葉を加速させる。問答のうち、いつも対外的には「僕」としている一人称の呼び名を「俺」にする。

「コーチには何も指摘しない、嫌なことを言わないいい人ってたくさんいるんですよ。その人たちは、いいコーチと言われる。けど、俺から言わせたら、それはいい人かもしれないけれどいいコーチじゃない。僕は、何かを言って相手にどう思われようが関係ない。そいつが『クソッ』と思って頑張って成長できればいい話なので。選手主導と言っていた方が楽だし、聞こえもいい。でも、それをはき違えている人がいっぱいいる。もちろん、正しくやっている人もいますけど」

 ジョセフ率いる日本代表では、緻密な攻撃戦術を考えるトニー・ブラウンアタックコーチ、「コア(体幹)の短い」選手の強さを活かしたいとする長谷川慎スクラムコーチが緻密さを示す。ジョン・プラムツリーディフェンスコーチはハリケーンズのヘッドコーチを務めるため当分不在も、3月中旬の沖縄合宿では母国ニュージーランドから新しいメンタルコーチや柔術の専門家が訪れた様子。本番ではアイルランド代表、スコットランド代表などとぶつかり史上初の8強入りを目指す。

 日本代表の主将を2大会連続で務めそうなリーチ マイケルは、昨年末の時点で「いまのチーム内の課題は、お互いにどれだけ厳しくできるかだと思います。お互いにだめなプレー、できていないところをフィードバックし合うチームにしないといけない。コーチに言われないように、指摘し合う」と強調していた。コーチングと「選手主導」の絶妙なブレンドは成立させられるだろうか。

 ちなみに、観戦者もよき「選手主導」と「コーチングの放棄」を見分けることができる。沢木は「(選手が)正しい判断ができているか、チームのストラクチャーを守れているか、自分勝手なプレーをしていないか。そういうところだと思います。試合を観ていたらわかりますよ」と解説した。

向 風見也
【筆者プロフィール】向 風見也( むかい ふみや )
1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(共著/双葉社)。『サンウルブズの挑戦』(双葉社)。

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