【ラグリパWest】髙橋家のしあわせ。
ここに一枚の写真がある。
加藤尋久、飛騨誠、福本正幸、戸田太、小辻陽二、デービッド・ビックル…。
夏のオフ、海水浴、笑顔が並ぶ。
神戸製鋼のチームメイトたちは、みなまだ20代の若さだった。1988年度から始まった7連覇、そしてその後を支えた。
青い日本海を背景にしたワンカットには、髙橋晃仁(こうじ)と繭子も映り込む。
「場所は琴引浜。1995年ですね。私たちはその前の年に結婚しました」
繭子ははっきりと覚えている。
2人は高校時代から8年越しの交際を実らせる。この時、愛の結晶はまだいない。
第一子の汰地(たいち)が生まれたのは、翌年のことだった。
それから20年以上が過ぎる。
2019年1月12日、明治は第55回大学選手権を制した。天理に22-17。優勝は実に22年ぶり。緑の天然芝の上で、紫紺は歓喜を爆発させる。その中には汰地もいた。
父は伏見工(現京都工学院)でラグビーを始め、神戸製鋼に入った。息子も同じウイングとして学生日本一になる。
親子の軌跡は重なり、よろこびは広がる。
「いや、もううれしいだけですよ」
現在はグループ会社・神鋼環境ソリューションに籍を置く父は目を細めた。
2人から5人に増えた家族は、快挙を秩父宮で見た。自宅のある神戸から上京する。
上の妹の采絹(あやき)は感動した。
「トライしてくれた瞬間、泣きました。見たかったものが見られました。友達に自慢できるお兄ちゃんです」
汰地は、スクラムハーフの福田健太とのスイッチプレーでインゴールに飛び込む。前半22分、10-5と逆転した。
「素晴らしいよ。彼のお蔭で勝ったんだ。決勝の天理も、準決勝の早稲田も」
藤島大は振り返った。ラグビー・ライティングで他の追随を許さない男は絶賛する。
采絹は龍谷大の新3年生。ラグビー部員だ。関西Bリーグに所属するチームでトレーナーをしている。父、兄と同じ道をたどり、大学から楕円球界の住人になった。
下の妹の和花(のどか)はにっこりする。
「いない、いない。タイチみたいに、かっこいい人は、学校に。それにおもしろいし、優しいし。ずーっとおしゃべりしてます」
共学の神戸龍谷で新2年生になる。女子高生「のんちゃん」にとって、兄はパーフェクトな存在だ。
汰地が競技を始めたのは5歳だった。
父の現役引退は、その前の年にあたる2000年3月。大卒選手が主流の神戸製鋼で、高卒ながら公式戦43試合に出場した。
おぼろげながら覚えているプレーに、汰地は導かれる。地元の兵庫県ラグビースクールに入った。同時に父も指導員を始めている。