女子 2017.09.04

極めたい。高まる15人制への思い。タックラー、末結希(女子日本代表)の胸中。

極めたい。高まる15人制への思い。タックラー、末結希(女子日本代表)の胸中。
ハードワーカーの末結希。熊谷市役所在籍。(撮影/松本かおり)
 右目の下が擦れていた。
 好タックラーの証だ。
 末結希(すえ・ゆうき)にとって8月はタックルの月だった。アイルランドでおこなわれた女子ワールドカップで体を張り続けた。サクラフィフティーンのFLとして全5試合に先発した。
 大会オフィシャルサイトには、日本の1002回のタックルが今回のW杯におけるチーム最多タックル数だったと記載されている。末はそのうちの109タックルを実行(チーム最多/タックル成功率93パーセント)。大会第3位の個人タックル数だった。
 アイルランドでの激闘の日々を振り返って言った。
「(プールマッチ初戦、14-72と大敗した)フランス戦では、個人的にもチーム的にも、自分たちのプレーが出せないまま、驚いているうちに終わってしまいました。緊張もあったし、最初にああいう形で(キックオフで逆サイドに蹴り込まれて)トライされ、次は何をされるんだろう…と。相手を分析していたけど、全然違うことを最初にされて浮き足だってしまった」
 それでも気持ちを切り替えて臨んだアイルランド戦では勝利に近づき、オーストラリア戦でも健闘。敗れたものの、「自分のタックルが通用したところもあって」手応えを感じた。
 最終的には香港から勝利を挙げただけだったが、チームと自分の世界の中での立ち位置をあらためて知る貴重な日々だった。
 長崎のラグビーファミリーに生まれた。
 ばってんヤングラガーズで楕円球を追い始めたのが3歳の頃。ゆのきラグビースクール、福岡レディースでプレーを続け、長崎西高、東京学芸大に学んだ23歳だ。アルカス熊谷、15人制女子日本代表、女子セブンズ日本代表で活躍。弟の拓実さんは帝京大ラグビー部に所属している。
 セブンズではSHでプレーすることが多く、15人制ではFL。ボールによく触れ、ゲームの理解力も要求されるポジションを任されるだけにラグビーをよく知る。だから大会中に、フランス戦の反省を活かし、自身のプレーを修正できた。それが2戦目以降のハードワークを呼んだ。
「タックルで直したのは、相手と足を近くすることと、外側の足を取る(持ち上げる)ことでした。普段やっていることができていなかったので、あらためて意識しました。そして、受けるのではなく、自分から思い切りコンタクトすることをテーマにしてからうまくいくようになった」
 大きな体を利して、次から次にゲインを重ねる対戦国。自分が正しくポジショニングし、強い姿勢をとる前に相手に当たられるから受け身になる。だから、自分から前に出られるように、鋭く、何度でも動く意識を高めた。
 大会第3位のタックル数について「自分の運動量としてはよかったのかな、とは思いますが、タックルが多いのはディフェンスの時間が長く、なかなかボールを取り返せなかったということ」と分析し、「もっと質を上げないといけない。もっと押し込むタックルをするとか、相手を思うように倒させないタックルも必要だろうし、タックルの次の動きを高めたり、ジャッカルしたり、ブレイクダウンにもっとプレッシャーをかけるとか、そういったことをやれるようにしないといけない」と話した。
 世界との差を知り、思った。
「これまで15人制とセブンズをやってきて、その両方を一生懸命やっていこうと思っていましたが、今回ワールドカップに出場して、それが可能なことなのだろうか、と考えたんです」
「いま迷っている」と言った。
「(NZ×イングランドの)決勝は凄くレベルが高かった。(15人制とセブンズの)両方をやっていて、こうなれるのかなと思ったんです。今回、セブンズ(サクラセブンズ)の選手たちが(15人制の)ワールドカップに出ないで合宿している気持ちが分からなかったのですが、極めるというのは、どちらかを選ばないとできないのかな、と。両方やっていてもやれるのかどうか…」
 大会を終えての帰国直後。これからの生活について、いろんなことを考えていた。
 15人制に特化して次大会を目指すか、セブンズにも打ち込み、それを15人制にも活かすか。選択の難しさもあるが、そもそも国内に15人制のインターナショナルプレーヤーとして日々向上していける環境があるか否かの問題がある。
「海外に行く。それも選択肢のひとつと考えています。ラグビーの面だけを考えたら、それもいいと思う。ただ、いま自分のいるクラブ(アルカス熊谷)はS&Cやメディカル面のサポートが整っています。そういう面も含めて、自分を高められる環境がいちばんいいところでやりたい」
 バックローに好選手がいると感じた、フランス、オーストラリアに興味がある。国内で、男子とともに練習する日常を探せないだろうか。そう考えてもいる。東京学芸大時代、男子部員と練習していた日々がいまに生きていると感じるからだ。
 国内外を問わず、自分がもっとも成長できる場所を求めたい。
 勝てるんじゃないか。そう思っていたフランスに粉砕され、トップ4の次元の違う強さを知った。アイルランドやオーストラリアは、その名前を聞けば遠い存在と思いがちな国だったが、「経験を積んでいけば将来勝てる」と手応えも得た。
「今年、24歳になります。チーム内でも、ちょうど真ん中の年代。プレースタイル的にも、次(4年後のW杯)で勝負したい」
 これまではジョージ・スミスやデービッド・ポーコックに憧れていたが、W杯で対戦したフランスの7番、ロマーヌ・メナジェのレベルの高さを体感して、新たなターゲットを見つけた。その人は、177センチ、78キロの体躯ながら速く、よく働く。162センチ、62キロの自分が追いつき、追い越すには、覚悟を決めて毎日を過ごすしかないのは分かっている。
「今回、コンタクトで通用したところは自信になったけど、アタック面ではボールキープはできてもボールキャリアーとしてはゲインできなかった。そのあたりをもっと高めたい」
 4年後はすぐにやって来る。
 悔いのない日々を過ごす。世界トップクラスのFLになる。サクラフィフティーンの世界8強入りを絶対に実現させたい。
 

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