国内
2016.10.05
研究されても押す! ヤマハのジャパン入り第一列・日野&伊藤、快進撃語る。
ヤマハの勢いが止まらない。日本最高峰のトップリーグで今季、開幕5連勝中。10月3日に発表された日本代表メンバーにも、6名がリストアップされた。さらに今後の代表入りを狙う伏兵も、大暴れしている。
10月1日、東京・秩父宮ラグビー場。リコーとの第5節を47−14で制してもなお、ゲーム主将だったHOの日野剛志副将は満足しない。身長172センチ、体重100キロの26歳。チームの売りであるスクラムの手応えについて、こう語った。
「圧倒できるスクラムが少なかった。これから各チームとも対策をしてくると思うんですけど、それに負けないよう、自分たちのスクラムを見つめ直していきたい」
ヤマハでは、元日本代表の長谷川慎FWコーチがスクラムの理論を提唱している。
後列の両FLが最前列の両PRのお尻を中央方向へ押し込み、両PRと密着したHOが矢印の先頭と化す。束ねられた力は地面のすれすれの位置で前進し、相手のスクラムを神輿のように担ぎ上げる。
もっとも長谷川FWコーチ着任から6年が経とうとしており、各チームともヤマハ独自のスクラムへの対処法を練り始めている。この日も日野は、リコーの姿勢に「ロッキング」をしていると感じた。専門用語を使わずに言えば、「押してくるというより押されないイメージでやっている」とのことだ。
「ヒットした後に、姿勢を取り直されたり…。ウチとしてはヒットして、組み勝って、そのまま行きたかったけど、組んだ後にああやって我慢をされてしまうと…。変に押しに行ってペナルティを取られるのも怖かった。それ(リコーの組み方)はわかっていたんですけど、そこを、うちが攻略しきれなかった。反省ですね」
それでも見た目上は押し込んだスクラムが多かったものの、当事者が注視するのは内なる感触だ。組み勝つまでのプロセスだ。
この先の進むべき道について、日野副将は「自分たちのスクラムを見つめ直していきたい」と語る。例えば、この日のようなぬかるんだ芝の上でも足を滑らせないよう、普段から荒地で「自分たちのスクラム」を組む練習をしたいという。
「完璧なコンディションだったら、常に押せる自信はあるんです。ただ、これからもっと寒くなったら、芝が一度凍って、溶けたりもする。そういうのも見据えてやっていかなきゃいけないかな、と」
今季からレギュラーとなったのが、右PRの伊藤平一郎だ。身長175センチ、体重115キロで、5日には26歳の誕生日を迎えた。
今季はパナソニック、東芝と、日本代表のフロントローがいるチームをスクラムで圧倒。そのまま白星をもぎ取った。左PRの山本幸輝、日野副将らとともに、10月の日本代表合宿へ参加することとなった。
こちらも、リコー戦のスクラムには「ロッキングの感覚があった。こちらが対処するのが遅れてしまった。イメージとしては、もう少しやれたかな」。不完全燃焼だったと口にする。今後の目標を問われ、迷わずこう言い切っていた。
「もっと圧倒したい。ただ、それだけです。ヤマハで求められているのは、まず、そこです。スクラムを押すと、皆、ポジションに関係なく一喜一憂してくれる。やりがいはあります」
躍進を支える日本人選手がもう1人、いる。
ヘル ウヴェ。拓殖大時代には主将を務めたトンガ出身の26歳で、身長193センチ、体重115キロのファイターだ。今度の日本代表入りは叶わなかったが、2019年のワールドカップ日本大会出場を目指す。
昨季は3試合のみの出場に終わったが、今季は開幕からずっとメンバー入りを続けている。時にはリザーブとして、時には元ニュージーランド代表のモセ・トゥイアリイの代わりに先発として、ブラインドサイドFLとしてプレーする。攻守で持ち前の怪力を披露する。
「インパクトを出したい。まだまだレベルアップしたい。もっともっと、スタートメンバーにも入りたい。いまはラグビーが、楽しいです」
9月17日、ホームの静岡・ヤマハスタジアムでの第4節。背番号6をつけて東芝を40−6で制した。後半19分頃、自陣ゴール前での相手のモールへ身体を入れる。楕円の球を手繰り寄せ、ターンオーバーを決めた。試合終盤にも恐るべき腕力を誇示し、こう笑った。
「それが、ヤマハのスタイルです。2人でタックルして、自分の仕事として、ファイトしています。自信を持って、自分の力を100パーセント出し切る。アピールしたい」
転機を迎えた。『ラグビーマガジン』の選手名鑑の制作終了後に、日本国籍を取得。チームが開く日本語教室への参加やプライベートでの充実などによって、日本語もめきめき上達している。
「もっともっと、高いレベルでもやりたい。日本の代表をターゲットにしています」
日野や伊藤と違い、ヘルには声がかからなかった。日本代表のジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチとは「まだ(会っていない)」という。11月に組まれたテストマッチ(国際間の真剣勝負への出場数)4連戦までの間に、地殻変動は起きるだろうか。
(文:向 風見也)