国内 2016.09.25

元トップリーガーの「スタンダード」と「恩返し」。日野自動車、開幕3連勝。

元トップリーガーの「スタンダード」と「恩返し」。日野自動車、開幕3連勝。
日野自動車レッドドルフィンズの佐々木隆道(右)と崩光瑠。(撮影/長尾亜紀)
 日本最高峰トップリーグの下部にあたるトップイーストDiv.1で、前年度まで9位、7位、4位、4位と順位を上げてきている日野自動車は、今季、開幕3連勝中だ。
 9月25日は東京・秩父宮ラグビー場で、秋田ノーザンブレッツに66−5で大勝。初のトップリーグ昇格に向け、サントリーから移籍のFL佐々木隆道は「勝利を重ねるなかで、皆でチームを強くしている状態です。成功体験を重ねているところ」と思いを明かす。
 スクラムで圧倒した。まずは前半9分、相手ボールのスクラムで反則を誘い、自由にプレーを選択できるペナルティキックで自軍ボールスクラムをチョイス。右肩上がりの方向へ押し切った。最後尾にいたNO8テビタ・メツイセラが、無人のインゴールへなだれ込んだ。加入2年目の日本人プロ選手であるSO君島良夫がコンバージョンを決め、7−0と先制した。
 東海大の指導にも携わる宮本安正FWコーチは、「8人ひと塊。一部の選手に依存しないで、全体的にレベルアップする」と提唱。試合を通じ「まだまだですけど、選手がゲーム中に修正できたことはよかった」と手応えを得る。同じ東海大の出身であるHO崩光瑠は、こう笑顔を浮かべた。
「宮本さんが外から観た印象と自分が実際に組んだ感触をすり合わせ、どんなスクラムにしていくかを考えている。チームとしての武器になっています」
 12−0とリードを広げて迎えた29分には、敵陣中盤右中間のスクラムを押し込み、左へ展開。タッチライン際をWTB小澤和人が駆け抜けると、今度は逆側へボールをつなぐ。右に残っていたFW陣が突破を重ね、最後はFL佐々木がインゴールを割った。
 その後も連続攻撃あり、ターンオーバーから速攻ありと快適にプレーを続ける。クラブチームの秋田は、各選手が異なる仕事をしているため大人数での練習時間を取りづらい状況にある。日々、同じ顔ぶれでトレーニングしてきた勝者にはアドバンテージがあったか。それを踏まえたうえで、細谷直監督はこう語った。
「プラン通り。縦への脅威を使って、ワイドに振る。単純に振る…というのではなかったのがよかったです」
 日野自動車は、指揮官いわく「景気に左右されにくい、社員に愛されるチーム」を目指している。選手の大半は夕方まで勤務にあたるという。
 そんななか社員、プロ選手を含め、他クラブからの移籍組が存在感を発揮している。その1人が、日本代表として2007年のワールドカップフランス大会などを経験したFL佐々木である。
 細谷監督に「選手の目線から、いまできていないことを指摘してくれる。存在感は大きい」と称賛されるなか、こう口にした。
「日本代表、サントリー、(前年度王者の)パナソニックの選手はどれだけトレーニングをしていて、どんな思いで日々を過ごしているか。そういう選手に勝つにはどうすればいいか…。その、問いかけ(をしている)。それを知って、自分たちのものにしていけばいいな、と。皆、もっと強くなりたいという意識は高いので。もちろん、簡単なことではないですが」
 FL佐々木の謳う「スタンダード」を「ミスボールへの反応など、こだわるべき部分に関して声掛けをしてくれる。実際に身体でも示してくれる」と語るHO崩は、昨季まで東芝でプレーしていた。前年度のトップリーグで準優勝した東芝には、昨秋のワールドカップイングランド大会日本代表である湯原祐希、今季からジャパン入りした森太志と、2人の実力派HOがいた。
 会社の不適切会計問題に伴う業績不振と相まってか、この冬、2シーズン目を終えた崩は構想外である旨を告げられた。冨岡鉄平監督(現ヘッドコーチ)、猪口拓採用担当らの尽力で、新天地へ渡っていた。
「東芝でプレーできなくなったのは、誰のせいでもない。自分の人生で起こったことを、どうプラスに捉えるか、と考えてきました。会社の方も快く送り出してくれた。いろいろなことが合わさって日野自動車に来れて、感謝の気持ちしかないです」
 5月1日付の入社時から、不慣れな経理関係の業務に携わる。いまの個人的な目標を問われ、「僕が勝てなかった湯原さん、森さんを(スクラムで)押すこと」と応じた。
 移籍組が多いラインナップにあって、FL佐々木は「これまでいた選手の受け容れ方が素晴らしくて、ずっと何年も一緒にやって来たようにフレンドリー」と周りに感謝する。
 三菱重工相模原、釜石シーウェイブスとの上位争いに際し、今後の課題を「正確なプレーをすること。簡単にプレーをあきらめないこと」と語る。
「上手い、下手とは関係のないところ、上位2強が大事にしていないであろうところで、自分たちは勝負していく」
 まずは各地域リーグの上位陣とぶつかるトップチャレンジ行き(上位2チーム)を見据え、歩み続ける。
(文:向 風見也)

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