コラム
2016.07.01
まとまりで道を拓く 中部大学春日丘高校
ウエイトルームでトレーニングをする春日丘の選手たち。
右のオレンジ色のシャツを着ているのがFB浅井宏太主将
「ハルヒ」と呼ばれる中部大学春日丘高校(愛知)は今年、戦力ダウンと向き合う。
国語科教員でもある監督・宮地真は話す。
「FWは8人中7人が抜けました。体重90キロ級だった両CTBも卒業です。レギュラーSOの河部(周次)も手術をしました。復帰予定は9月です。まあでも、それが高校ラグビーですから、いたし方ありませんね」
チームを率いて25年目になる50歳は、視線を落とした。
昨年は3年連続5回目の花園に出場した。4月の第16回全国高校選抜大会8強、10月、選抜チームでの2015紀の国わかやま国体は3位に入った。シード校には推されなかったものの、同等の力はあると見られていた。
しかし、初戦で出場44回を誇る佐賀工(佐賀)に21−24と逆転サヨナラ負けを喫した。宮地は半年前に思いをめぐらす。
「春から私自身、手応えがあって、傲慢なチーム作りになってしまいました。本来、ピンチの状況を設定して練習をするのですが、強みを生かすため、フィジカルトレーニングの方に重点をかけすぎた。佐賀の時は終了間際にターンオーバーしました。そのボールを蹴り、試合を切ればいいのに、スコアしに行かせてしまった」
自分の指導力不足が口を突く。
反省を踏まえ、現状を見て、宮地は「まとまり」をチームの軸に据える。特に前8人のユニットでの動きに注意を払う。
「FWの仕上がりが、チームの仕上がりになってきますから」
平日2時間の練習は、FW同士にコンタクトをさせ、費やすことが多くなった。8対8で当たって、掴んで、寝て、起きる、散る、集まるの繰り返し。
「自陣からこういうイメージを持っています」
宮地は両手を胸の前で、肩の幅に広げ、矢印を描きながら合わせた。
最後はFWが塊となって相手インゴールを陥れる絵づらが、頭の中にはある。
戦術は当然ながら、精神的な一体化を大切に思うのは主将のFB浅井宏太だ。
「今年は個々よりもチーム、というつもりでまとめています」
指導者を抜き、選手や学年同士のミーティングを増やした。
「試合前に気合が入っている人たちだけが頑張っても勝てません。その意識が低い人たちに、同じものを求め、『これはこうだろ』と頭ごなしに言えば、沈んでしまうし、嫌になります。『どうしたらいい』と一緒に考え、答えを導くべきだと思っています」
浅井の気遣いは、新入生にも伝わる。
大籔洸太は今年4月に入学した。父・正光は日本代表キャップ1を持つが、本人は初心者。それでも、6月25日の第3回全国7人制大会愛知県予選ではBKとしてメンバーに入った。本格的ラグビー歴は約3か月。1年生は入学即活躍できる理由をチームの雰囲気に見出す。
「先輩たちが何をしたらいいのか、しっかり教えてくれます。ウエイトの種目も丁寧に、優しく。あいさつなんかも、『立ち止まって、目を見てやりなさい』という感じです」
大籔はヤマハ発動機監督、清宮克幸を父に持つ幸太郎(早稲田実業2年)と同じ硬式野球のシニアリーグ出身。清宮は野球を続けているが、大籔は豊田シニア(愛知)を最後に、白球を楕円球に持ち替えた。今のアピールポイントは50メートルを6秒2で走り切る脚だ。
「僕は走るのが得意なので、野球よりもその長所を生かせます」
帰宅後もラグビー漬け。年長者の次は、花園高(京都)、龍谷大を経てトヨタ自動車入りした父がコーチだ。広い視野で、人を活かした元CTBからスクリューパスなどを習う。
「毎日が楽しいです。リア充? そうそう。生活は充実しています」
新入生をチームに溶け込ませ、部員65人のまとまりで強くなるやり方は、少しずつ結果を運んで来ている。
2月、第20回東海選抜大会(新人戦)では準決勝で朝明(三重)に10−14で敗れたが、6月の第63回東海高校総体決勝(春季大会)では31−10と勝利した。
4か月で結果をひっくり返し、愛知、三重、岐阜、静岡の4県からなる東海地区での「NO1」の称号を取り戻す。
昨年9月、サッカー部と共有するグラウンドは人工芝化された。来年度からは学校間協定によるニュージーランドへの留学が始まる。現地での単位は認定され、留年はない。
ラグビー部寮は宮地が自宅を改造してすでにある。今は部員4人が生活している。
春日丘は1965年(昭和40)創部。今年52年目を迎える。日本代表キャップ18のPR長江有祐(豊田自動織機)、トヨタ自動車の彦坂ツインズ、HO圭克、WTB匡克らを輩出した歴史は、インフラ整備にも好影響を与える。
今年の目標を問われ、浅井は答える。
「全国大会でベスト8に入ること。3回戦を乗り越えたいです」
5回出た花園での最高位は93、94回大会(2013、2014年度)の3回戦だ。
オレンジに肩にブルーとわずかに白が入るジャージーは、チームスローガン「砕」を胸に、結びつきの強さで未踏峰を目指す。
(文:鎮 勝也)