海外
2016.02.26
27日にスーパーラグビー初戦。稲垣が語る、サンウルブズの守備とスクラム
サンウルブズの初戦に向け気持ちも充実している稲垣啓太(撮影:松本かおり)
――スーパーラグビー初先発。気持ちは。
「そう言えば、そうですね。でも、そこにはあまり興味はないです」
稲垣啓太はこうでなくては。景気づけのような問いかけにはやや素っ気ない。当然。見据えるのは、自分とチームが戦えるかどうかだ。
世界最高峰リーグのスーパーラグビーに今季から初参戦する日本のサンウルブズは、2月27日、東京・秩父宮ラグビー場でライオンズとの開幕節を迎える。26日、左PRで先発する稲垣は「まぁ、やっと来たという感じですね」。オープニングゲームを淡々と見据える。
タックル。倒したランナーをそのまま抑え込みにかかり、少なくとも敵の下敷きにはならない。ボディバランスを保って、すぐに起き上がる。周りを見回し、守備陣形の一部と化す。周りと声を掛け合う。狙いを見定め、またタックルする…。
サンウルブズの公式記録上は「身長186センチ、体重116キロ」の25歳。日本のパナソニックの一員でもある稲垣は、縁の下を支えるPRにあって際立つ運動量を示す。その資質が買われ、前年度はレベルズ(オーストラリア)の一員としてスーパーラグビーを経験した。昨秋のワールドカップイングランド大会でも鋭いタックルを連発し、日本代表に歴史的3勝をもたらした。
サンウルブズでは、貴重な経験をクラブへ還元する。物事をわかりやすく言葉にする資質を評価されてか、マーク・ハメット ヘッドコーチには周りを引っ張るよう要求されている。パナソニックと日本代表でも仲間同士の堀江翔太主将の態度を参考にしながら、特に組織守備のリードに責任を持つ。
チームが本格的に動き始めた愛知合宿中の9日。初めて守備システムの連携を確認した後、稲垣は「リーダー的な役割を任されている。自分にとってはステップアップになる」と話した。
「シンプルなところにこだわっています。少ない情報量(声)で自分の役割(立ち位置や飛び出すタイミング)を把握するイメージ。新チームにとって、ディフェンスが鍵になる。僕自身、ディフェンスが鍵だと思っていましたし、コーチ陣にもそう言ってきた。まずは自分ができないと。自分を見本にしてもらえるようにしていきたいですね」
以後は中旬に沖縄でキャンプを張り、組織体系の共有を目指していった。集合から本番まで1か月足らずというなか、「時間が足りなすぎる」と断言。それでも始動当初のぎくしゃくした様子を、徐々に解消させている。だからこそ、次なる改善策が口を突く。
「(より)チームに(システムを)浸透させるうえでは、パイプ役が必要かもしれません。外から(飛び出し方などに関する)コールが出る。それを中(接点付近など)に伝える、そのエコー役が足りていない」
一方、PRの本職とされるのはスクラムだ。今度の相手で昨季15チーム中8位だったライオンズは、南アフリカをベースとしている。力勝負を好む同国のカラーにならって、巨躯を揃える。先発FWの平均身長が国際基準では小さい「188.3」というサンウルブズは、どう対抗するか。「低く組んで、高い姿勢で組む相手を立たせるようにしたい」と、最前列左で組む稲垣は話す。
昨年までのジャパンにあっては、元フランス代表のマルク・ダルマゾ コーチが手取り足取り指導。かたや、サンウルブズでは「選手主体ですね」と稲垣。「まず、自分たちがどういうスクラムが組みたいのかを明確にする。それに関していろんな意見を出し合い、最後は(最前列中央で組む主将の)堀江さんがまとめる」。現実を見据え、こう展望する。
「沖縄では、だいぶ組み込みました。ただ、スクラム強化に近道はなくて、練習よりも実戦で得られるものの方が多い。イメージとしては、ちゃんと(自軍スクラムの際に)ボールを出す。あれだけ大きい相手を何度も押すことは、不可能。そのなかでも、自分たちの強みである低い姿勢を保つ。そして、(相手の気が)抜けたところで押し込む…。その押し込むチャンスは、1試合に1、2本でしょう」
レベルズでの出番は、たった1度の途中出場のみに止まった。「戦術理解が追いつけば(もっと試合に)使いたいと言われた」と手応えをつかんだものの、チャンスを得られなかった自分には納得がいかなかった。一時は、契約延長を望むレベルズへの再挑戦を決意していた。もっとも、堀江の誘いなどに影響されてサンウルブズに入れば、間もなく「ここへ来てよかった」。日本の選手として、日本のチームの世界挑戦を下支えしたいという。
「準備期間では皆、頭を使ったと思う。実戦でまたひとつ成長したい。結果も出したい」
クラブのスタートラインに立ち会う。
(文:向風見也)