国内 2025.09.13

トップイースト開幕。SO清水率いる山梨が日立を破り、早くも混戦の予感。

[ 鈴木正義 ]
トップイースト開幕。SO清水率いる山梨が日立を破り、早くも混戦の予感。
この日キーマンとなった山梨SO清水晶大(左)。頼もしい司令塔はきのこが苦手というかわいい一面も



 今シーズンのトップイーストが開幕した。リーグワンの新規参入チーム募集に対し、AZ-COM丸和MOMOTARO’S、日立SUN NEXUS茨城の2チームが申請するなど、例年にも増して話題が豊富だ。リーグワンのホームページよると、参入の可否は2026年1月末に「競技成績を踏まえて決定」とある。まさに2チームにとっては「絶対に負けられないシーズン」だ。

 そのような中、日立は9月7日の初戦で、今シーズンAグループに昇格して勢いのあるクリーンファイターズ山梨をホームに迎えた。

 山梨と日立、これまで何度となく対戦してきた組み合わせだが、ことごとく日立が山梨の挑戦を退けてきた。今年行われたトップイースト春のトーナメントでも、50-14と大差をつけて日立が勝っている。

 しかしこの日の山梨は、数か月前とは別のチームになっていた。そのキーマンがSO清水晶大(関西学大)だ。神戸製鋼、豊田自動織機とリーグワンでプレーした経験値はもちろん、練習中も歯に衣着せずズバズバ言うスタイルで改善すべき点を指摘してきた。このスタイルが山梨を覚醒させたと言っていい。

 試合になっても清水を中心に山梨は動く。多彩なアタックを仕掛けると、日立に焦りの色が浮かんだ。不用意なペナルティ、大事なところでのノックフォワードなど、スキルの高い選手が多いはずの日立らしからぬプレーで苦しい展開となった。

 しかし日立もやられてばかりではない。春の対戦で山梨を苦しめたスクラムで何度となくコラプシングの反則を獲得し、その強さの片鱗を覗かせる。調子が上がらないながらも7-12と山梨を1トライ差で追いかけ、ハーフタイムとなった。

 リーグワン参入を視野に入れる日立は、ここ数年着実に戦力の強化をおこなっている。前半トライを決めた元クボタのNO8積賢佑(流経大)、東海大でリーグ戦ベスト15にも選ばれているFB酒井亮治、2018年ユースオリンピック銅メダルメンバーのWTB中西海斗(流経大)など、実績のある選手がメンバーに名を連ねる。

 さらにこの日は出場がなかったが、今シーズンより神戸製鋼の日下太平も8月末にチームに合流している。いったい日立というチームの何がこうした有力選手を惹きつけるのだろうか。

 昨年大学リーグ戦で大東大の7年ぶりリーグ戦優勝にキャプテンとして貢献したチームの新人、FL蓑洞功志に日立というチームについて試合前コメントをもらうことができた。

「とにかく雰囲気のいいチームだからと先輩たちからも誘っていただいた。和気あいあいとしながらもモチベーションはとても高い。職場の人たちも選手を応援してくださり、今日もスタンドから見守ってくれていると思う」

日立FL蓑洞功志。大学までの実績に違わぬハードワークで、この日も山梨FLとの激突で観客を魅了してくれた。原動力は好物のオムライス

 その言葉どおり、スタンドはチームカラーのオレンジをまとった地元ファンで埋め尽くされ、チャンスになるとTVCMでお馴染み「日立の木」をアップテンポにアレンジした曲で選手を後押しする。まさにここは日立の町、サンネクサスの町なのだ。

 この地域と企業、そして選手たちの暖かい結びつきが日立というチームの魅力であり、強さの原動力だ。この地元密着の雰囲気を、リーグワンの舞台で見られる日が待ち遠しい。

 しかし、この日はとにかく山梨が元気だった。

「我々は挑戦者、失うものはなにもない。思い切り戦うだけだ」

 清水のその言葉を体現するように、完全なアウェイの中、原田季弥(流経大)、松本雄大(山梨学大)の両FLが凄まじい出足で日立のアタックを止める。

 一方の日立もスクラムをことごとく支配し、山梨はたまらずペナルティを連発してしまう。後半は全く互角の戦いのまま互いに1トライづつ奪い合い、試合はロスタイムに突入する。

 最後まで粘りをみせる日立だが、ここで山梨清水が一瞬の隙を突いてDGを決め20-12とし、そのままノーサイドとなった。

快足を飛ばしトライを決める山梨WTBウエストブルック・アレックス慧南(専大)。今年の新人でこの日が公式戦初キャップ初トライとなった

 リーグワン入りを目指す日立としては手痛い1敗となったが、この1敗によってその実力に疑問符がつくことはない。これはむしろ山梨の健闘が光った試合だったと言える。山梨というチームについても別な機会にその強さの秘密を掘り下げてみたい。

 この日、日立は1000枚のTシャツを先着で無料配布するというファンサービスをおこなっていた。ハーフタイムにはチアリーダーの可愛らしい応援もあり、スタジアムDJが1500人の来場者を盛り上げた。

 グラウンドの周囲には数え切れないほどのスポンサーののぼり旗が並び、観客動員、収益性といった部分でもリーグワンの要件を満たすべく、確実にその準備は進んでいるように見受けられた。初戦には敗れたものの始まったばかりのシーズン、日立が真価を発揮するのはこれからだ。

 最後にトップイーストのその他のチームも簡単に名前を挙げておこう。まずは昨年優勝のAZ-COM丸和MOMOTARO’S、その丸和を春のトーナメントで破っている東京ガスブルーフレームスも初戦を無難に勝った。昨年山梨とともにAグループに昇格し、勢いのある明治安田ホーリーズも侮り難い。今シーズン、トップイーストは早くも混戦の様相を見せてくれている。

 なお、ラグビーファンにもあまり浸透していない情報かもしれないが、トップイーストの試合は大半が観戦無料だ(秩父宮での最終節を除く)。これだけのレベルのプレーヤーが間近で見られ、グラウンド周辺にはキッチンカーやイベントも開催されていて、家族連れできても楽しめそうなオープンな雰囲気。今シーズン1度は足を向けてみるのもいいだろう。

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