奥井章仁は日本代表で「どんどんラグビーが好きになって、毎日、楽しいです」

夏の日差しをよけるのにはサンバイザーを使う。帽子では頭皮が蒸れるからと、高校時代から習慣化する。
長くなった髪にはメッシュが入る。初選出されたラグビー日本代表のキャンペーンを終えたばかりだった今年7月、束の間のオフを利用して染めた。
23歳の奥井章仁は笑う。
「ただのイメチェンです。大学が終わってから(髪色を)入れようと思っていて。気分転換で、新しい自分を出そうかなと」
8月16日、都内であったジャパンのFW合宿の2日目に話した。口にするのは充実感だ。
「どんどんラグビーが好きになって、毎日、楽しいです」
先の6~7月の活動期間中、一時、故障で練習に加われないこともあったが、その辛さを肥やしに進歩のきっかけを掴んだ。
「『こっから、やっていきたい』という思いがあったなかで(のアクシデントで)正直、気持ちは落ちたんですけど、(チームから離脱せずに)残らせてもらえるチャンスをもらった。『怪我している間にどう変われるか』と意識して臨んでいったら…。何ですかね、言葉にするのは難しいんですけど、『自分は、どうしていったらいいのか』をより考えられるようになったと思います」
7月5、12日の対ウェールズ代表2連戦ではメンバーに絡めなかった。2試合目では、大阪桐蔭高、帝京大で同期だった江良颯がデビューしていた。
友人の日本代表ファーストキャップ獲得について、奥井はこう触れる。
「高校、大学と一緒にやってきた颯とは一緒に(キャップを)獲りたい気持ちはあり、悔しかったんですけど、それは僕の実力不足。それと、颯に実力があったということ」
身長178センチ、体重105キロ。FW第3列のFLを担う。一線級でその位置を担う面々は、身長190センチ前後の長身ばかりだ。
比較的、小柄な部類の奥井だが、江良が務めるHOをはじめとした前列の位置に移るつもりはない。大学入学時こそコンバートを検討も、いまは己の道を定める。
「もちろん、バックロー(FW第3列)から前列に転向する人が悪いわけではないです。でも、この身体でできることを証明したいし、バックローとして自分を表現したい。(アピールポイントは)ディフェンスラインを上げるところのスピード。それと僕は、ジャッカル、ブレイクダウンのサポートというスキルフルなところをずっと強みにしてきました。あとは、身体が大きい、小さいに関係なく、フィジカルでファイトしていきたいです」
帝京大の副将時代は、同大が現在4連覇中の大学選手権で3季連続12度目の優勝を果たしている。
2024年春に入ったトヨタヴェルヴリッツでは、ワールドカップ経験者の姫野和樹、同級生で京産大出身の三木皓正ら名手と定位置を争う。実質的にルーキーイヤーだった今春までのシーズンは、大学の後輩でV4主将の青木恵斗とも競争した。
バトルの只中、研究するのはスティールの動きだ。
以前はジャッカルと呼ばれた、接点で相手の持つ球を奪うスキルについて、足のつく位置、相手との距離感、さらには「どのシチュエーションでは、どの角度で入るか」といった詳細を突き詰める。
「まだ100パーセントではないですけど、『このポジション(体勢)なら強く入れる』というのが固まってきています」
この件でレクチャーしてくれる姫野には、ナショナルチームでの心構えについても助言される。いずれ代表復帰が待たれる先輩に、食事の席でエールを送られた。
「思い切ってやって来いと言ってくださっています。パフォーマンスにフォーカスして、やるべきことをやるのが大切だから、とも」
生来の周りを見る力によって、己の存在感を示す術を見出す。
「(代表に)入ったばかりで何もわからない状態。そんななかで、やるべきことを探して…という感じでやっています」
チームが直近のターゲットに据えるのは、パシフィック・ネーションズカップ。日本、アメリカなどで開かれる国際大会で、前年度王者のフィジー代表などビッグサイズのチームがひしめく。日本の初戦は30日のカナダ戦だ。
ナショナルチームでも海外出身者と競い合う奥井は、「(力を)試してみたいです。ラグビー選手として上のレベルでやりたいと思っていました。いまも色々と学べていますけど、(ゲームでも)知識を学びたいです」と微笑む。
「そして、それを下の世代の人にも伝えたい」
17日、宮崎にスコッドの全選手が集結する。