「夫婦」であり「親友」。現役引退の西川和眞[浦安D-Rocks/PR]&西川もとみ。
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浦安D-RocksのPR西川和眞が、2024-25シーズン限りで約25年の楕円キャリアに終止符を打った。
4歳から花園ラグビースクール(大阪)で楕円球を追い、英田中、天理高、天理大、NTTドコモ(現RH大阪)と歩んできた29歳。
高校3年時には天理高の花園通算100勝を経験。FWリーダーを務めた天理大4年時は同期のPR木津悠輔(現トヨタV)らと強力スクラムを組み上げ、関西Aリーグの連覇に貢献。安定感のある屈強なルースヘッドプロップだった。
「最後までやり切れた、という感じです。ラグビーと一緒に大人になりました。これでラグビーからはいったん退くので、新しい人生の始まり、という心境でいます」
そんな西川には喜怒哀楽を共にしてきた人がいる。歓喜を味わったときも、苦しいときも、いつも一緒にいた。
妻のもとみさんだ。
「来年30歳になりますけど、人生の半分くらいは一緒にいますね(笑)」
二人は天理高の同級生だ。
「僕はスポーツクラスで、彼女は普通科だったので、最初はまったく接点がなかったんですが、高校2年の学校のイベントで知り合いました」
妻になる女性に惹かれた理由について問われると、「今でもそうですけど、彼女はずっと明るくてポジティブ。僕が根暗なタイプやったので」とおどけた。
一方、当時高校2年生だった妻の心境はもっとドラマチックだった。出会った時に直感が働いた。妻のもとみさんが、にこやかに言った。
「初めて会った時から『結婚するならこの人やな』と思ってました。そのイベントが子どもの相手をするものだったんですが、子ども好きが滲み出ていて、『この人絶対に良いパパになるやろな』と。そこから仲良くなって、すぐ付き合いました」
高校2年で出会い、すぐ「彼氏」「彼女」になった。
その翌年、将来の夫になる「和眞くん」は仲間と金字塔を打ち立てる。
2013年の奈良県・花園予選決勝。天理高は、前年度の花園準Vのライバル・御所実を15-12で撃破。王子拓也主将(現天理高HC)や井関信介(現神戸S)らと共に、御所実業の県内連覇を「5」で止め、立川理道(現S東京ベイ)が在籍した2007年度以来となる花園出場を掴んだ。
東大阪市花園ラグビー場から至近の英田中出身の西川は、花園出場を手土産に地元へ凱旋。すると、出場した第93回大会、2014年元日の3回戦で流経大柏(千葉)に12-10で逆転勝利。秋田工業に続く史上2校目となる“花園通算100勝”を達成した。
そんな歓喜を共に味わってきた二人は、自然な流れで夫婦となった。「この人しかおらん」――互いにそう思っていた。西川が2018年に入団したNTTドコモ時代、2人は晴れて夫婦になった。
「昔は『彼女』で今は『嫁』ですけど『親友』でもあって、なんでも話せる仲です。気を遣わずに過ごせます」
そんな二人の関係性は変わらなかったが、周囲の状況は変わった。2人の愛娘に恵まれ、夫はラグビー、妻は子育てにそれぞれ多くの時間を費やすようになった。
一般的に「選手の妻」の活動は食事面のサポートをはじめ多岐にわたるが、西川夫妻のように幼い子どもがいる場合、日々の生活は煩雑になる。
「彼女がもともとポジティブなので、他の人が子育てで『もう無理』となってしまうような時も、『もう少しできる』と言ってしまう性格。それで苦労はしてると思います」
赤ん坊が夜泣きをしたら、翌日試合などがある夫を起こさぬよう、数時間おきに世話をする。夫が試合に出場する場合は幼子を連れて会場まで足を運ぶ。遠征などの場合はチームバスで帰る夫を見送り、帰宅する。そのほかにも着替え、送迎、料理、看病……。
”コントロールできない”子どもの世話に忙殺され、次第に心身が擦り減っていく。
「浦安D-Rocksになった時(2022年)に2人目の子どもが生まれました。僕がラグビーで帰りが遅くなる時は、どうしても妻が一人で子ども2人を見なければいけませんでした。いろんな我慢があったと思います」
そんなとき、妻は夫につらさを打ち明けた。
夫は、どんなときも妻の心に寄り添った。
そこで妻は「分かってくれた」と感じる。だから「もう少し頑張ってみようかな」と思える――。夫婦であり親友でもある同級生の2人は、そうして日々を乗り越えてきた。
「(子育てが)大変なときは愚痴ります。言ったら和眞くんは『そっかそっか』と寄り添ってくれる。私としては“寄り添ってくれる”ことが一番救われます。『和眞くんがこれだけ分かってくれてる』と思えるから、もうちょっと頑張ってみようかな、という感じです」
高校2年生の時の直感は、当たっていた。
「和眞くんは、めっちゃ良いパパです。子どもを相手にするのも、子どもの気持ちになって話すのも上手です。それに(私を)一番に大事にしてくれていることが、すごく伝わってくるので、何の文句もないです」
西川は2025年5月11日の練習試合(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦)に出場した。母の日におこなわれたその練習試合の後、妻・もとみさん、そして2人の愛娘と記念撮影をした。その周囲を浦安DRの同期たちが囲んだ。穏やかな笑顔が並んだ。
夫はこれから社業に専念する。
妻も今季限りで「選手の妻」としての立場は終わりになる。だが、そこに特段の思いはない。「和眞くんと私」は、これまでも、これからも、何も変わらないからだ。
「和眞くんが選手だろうが会社員だろうが、そこは全然なんでもいいというか。引退するとなっても悲しくなかったし『おつかれさま。これから楽しみやな!』ぐらいの感じです」
スパイクを脱いでも、変わらないものがある。
もとみさんは第三子を懐妊中。これからもっと慌ただしく、もっと楽しくなりそうだ。これからも最高の味方とスクラムを組み、こころに寄り添い、共に歩んでいく。
