声、動き、経験値に凄み。スティーラーズ日和佐篤は「シンプルなことを徹底的に」

ラグビー場で、この人の指示がよく響く。
「そうですか? まぁ、よく聞こえるって言われます」
朗らかに、淡々と応じるのは日和佐篤。5月22日で38歳にして、国内リーグワン1部のコベルコ神戸スティーラーズで主力を張る。攻めの起点のSHを担う。かねて定評のクイックなさばきは円熟味が増す。
日本代表としては、2015年のワールドカップイングランド大会などで計51キャップ(代表戦出場数)を獲得してきた。
国内でも実績十分。法大を経て’10年度に入った現東京サントリーサンゴリアスでは旧トップリーグの新人賞に輝き、退団する’17年度までに4度のリーグ制覇を果たした。
その間、タフな競争も強いられてきた。オーストラリア代表139キャップのジョージ・グレーガン、南アフリカ代表76キャップのフーリー・デュプレアが同僚だったからだ。
「(試合に)出られない時間が長くて悔しい思いもしましたが、いい経験にはなりました。当時の僕は速いテンポばかりだったんですけど、コントロールする時間、FWとBKの使い分け…細かいところを教わりました」
スティーラーズへ移ってすぐ18季ぶりの優勝を成し遂げたのは、’18年度のことだった。いまなおトップランナーのひとりとしてリーグワンを駆ける今季、印象的な出来事で話題を集めた。
2月1日のレギュラーシーズン第6節の直後だった。会場の神戸総合運動公園ユニバー記念競技場で、対戦したリコーブラックラムズ東京の高橋敏也にアドバイスを求められた。
同じSHの髙橋へ接点での動きについて話すその姿は、先方のSNSに掲出された。当の本人は「たまたま通りかかって、聞かれたんで。情報共有を」。相手チームの選手から質問されることは稀のようだ。
ブラックラムズは今季から、SHにニュージーランド代表89キャップのTJペレナラを据える。日和佐は、かつての自身と似た状況にいた高橋へエールも送ったという。
季節が変わった。5月までのレギュラーシーズンを昨季と同じ12チーム中5位で終え、従来と比べ参加数2枠増のプレーオフへ進んだ。
17日の準々決勝は東大阪市花園ラグビー場であり、スティーラーズは4位で直近2敗の静岡ブルーレヴズを35-20で下した。前半27分に17-7としながら後半12分に24-20と迫られ、かつ点差を広げる展開に手応えを掴んだ。
「モメンタム(勢い)が相手に行っている時間に、どれだけ我慢できるか(が大事)。成長できています」
準決勝は24日。東京・秩父宮ラグビー場で迎えるのは東芝ブレイブルーパス東京だ。ディフェンディングチャンピオンで首位通過の名門である。
4月6日の第14節でぶつかった際に28-73と大敗のスティーラーズにあって、日和佐は「(次戦は)殴り合いになる。フィジカルになる。まずパンチを出す」。リベンジを目論む。簡潔に宣言する。
「シンプルなことを徹底的にやることが、プレーオフを戦う秘訣のひとつ」
ノックアウトステージは前所属先でも数多く経験済みだ。