日本代表のティエナン・コストリーが掴んだ「自信」。
最初から大物とぶつかった。
ティエナン・コストリーがラグビー日本代表でデビューしたのは6月22日。東京・国立競技場でのイングランド代表戦だ。
戦前は、同じFLで先発予定だった35歳のリーチマイケル主将に不安を漏らすこともあった。
果たして自分は通じるのだろうかと。
当時の心境を振り返ったのは8月中旬。対戦相手の主力の名を挙げ、述懐する。
「試合前はたくさん緊張して。サム・アンダーヒル選手が走ってきたらどうなる?ベン・アール選手にタックルすることになったらどうなる?と。試合前、リーチさんに『どうなるかなぁ、心配しているんですけど』と言ってしまったんですけど、たくさん経験しているリーチさんが『大丈夫だよ』と。それでちょっと、安心しました」
当日は穏やかなリズムの音楽で精神を整え、徐々に気持ちを高ぶらせてキックオフを迎えた。
昨秋のワールドカップフランス大会を最後に首脳陣、戦力を大幅に入れ替えたジャパンは、結局、17-52で屈した。それでもコストリーは要所で鋭いラン、タックルを披露。内なる壁を破った。
「実際に強い選手にぶつかったら、人間は、人間なので(問題なかった)。自信がついた」
7月までのキャンペーンにおいて、唯一、勝利したのは7月6日。JAPAN XVとして挑んだマオリ・オールブラックス戦だった。愛知・豊田スタジアムで26-14。コストリーは途中出場を果たした。
その後チームはテストマッチ2連敗を経て、8月10日から活動再開。23日からのパシフィックネーションズカップ(PNC)を見据える。
異国を代表して世界に挑む心境を、丁寧な日本語で紡ぐ。
「私はこの(日本代表)ラグビーを続けたいし、強い相手にも勝ちたいし、色々と課題を探して、もっと個人としてもチームとしても成長して、(サマーキャンペーンで敗れた)イングランド代表、ジョージア代表にも勝ちたい。マオリ・オールブラックスに勝った時の気持ちはすごく嬉しかった。それを繰り返せるように練習、準備をします。ただ参加するだけじゃなくて、もっといい貢献ができるように頑張ります」
身長192センチ、体重102キロの24歳。ニュージーランド出身で、件のマオリ・オールブラックスにも知人がいた。
世界を広げたのは2019年だ。ワールドカップ日本大会があった年に初来日し、中国地区大学AリーグのIPU環太平洋大学へ入った。日本代表に憧れる、きっかけの年になった。
ちょうどキャンパスには、女子柔道の素根輝がいた。オリンピック東京大会での78キロ級の金メダリストだ。
初対面時は「1年生でまだ日本語が上手じゃないので、そんなに深い話はできていない」というコストリーだが、パリ大会でも日本代表となった同級生のことはずっと注目している。
「環太平洋大の女子柔道にはすごいプログラムがあって、階段を走ったり、ウェイトでおい込んだりしているのを見ていて、(同部に)友達も何人かいたので、応援していました。金メダルを獲ったときも、ライブで見ていました」
現所属先のコベルコ神戸スティーラーズに加わったのは2023年度からだが、国内リーグワンで初陣を飾ったのは22年度。アーリーエントリー制度を使ってのことだ。実質的なルーキーイヤーとなる翌シーズンは主力格となり、その流れでナショナルチームへ入っていまに至る。
現地時間8月25日(日本時間26日)には、敵地バンクーバーでパシフィックネーションズカップのカナダ代表戦を控える。
「カナダ代表はフィジカルなチーム。たくさんモールをしてくるので、私たちのモールディフェンスで圧倒したい。相手のセットピース(攻防の起点)を壊して、フィジカルでドミネート(圧倒)すればいい試合ができる。そのうえで、ジャパンの(コンセプトである)『超速ラグビー』をして是非、勝ちたいです」
掴んだ「自信」の確かさを証明する。