【サニックスワールドラグビーユース交流大会】試合以外の時間、大会開催以外の日も、大人への階段いろいろ。
ただラグビーの試合をするだけの大会ではない。
サニックスワールドラグビーユース交流大会は、それぞれの国、チームのカルチャーを伝え合い、一人ひとりの個性を出せる場だ。
大会の前日、大会の会場であり、選手たちが1週間寝泊まりする福岡・宗像のグローバルアリーナの中庭のあちこちで、自然と若者たちの輪ができている光景を見た。
楕円球と戯れるグループ。笑顔で会話をしている集団も。
夕刻、緑の中で西日に照らされるその空間は、穏やかで、きらきら輝いているように感じた。
4月28日の試合開始の前日から、交流は始まっていた。
この交流大会は、観客の目に触れるシーン以外の時間にも価値がある。
大会2日目の夜には男女全24チームが参加してのウェルカムパーティーが体育館でおこなわれ、試合日と試合日の間のオフ日には、様々なアクティビティが待っている。
今回は、4月30日に海外チームが参加する福岡県内観光ツアーが実施された。
参加選手たちは太宰府天満宮を訪れ、ららぽーと福岡でショッピングを楽しむ時間も。独自に広島ツアーに出掛けたチームもあった。
5月2日には、サウスランド ボーイズ ハイスクール(NZ)と忠北高校(韓国)が、近隣の東海大福岡高校を訪問して交流の時間が持たれた。
フィジーのマハトマ ガンジー メモリアルスクールも同校のラグビー部のもとを訪れた。
▼10代のエナジーが溢れる毎日。
各チームが壇上に上がり、趣向を凝らした出し物を披露したウェルカムパーティー(4月29日)は、選手たちが発するエナジーが凄かった。
まず、パーティーに参加する服装から各チームのカルチャーが感じられる。正装で参加するチームもあれば、ラフなスタイルの高校も。会場は、開会前から熱気に溢れていた。
出し物にも、それぞれの国やクラブの個性やカルチャーが見られた。
どれだけの時間をかけて準備して来たのか知りたくなるほどの完成度の学校もあった。肉体美を堂々と、コミカルに披露する者たちも。
自分たちの国の文化を伝えたいクラブの気持ちも伝わった。タイからやって来たラジャプラジャヌグロ66の少女たちの、少し照れたような表情は純真そのものだった。
あるチームの呼びかけに、ほぼ全員の選手たちが壇上にあがり、『ウィ・アー・ザ・ワールド』を歌ったり、声を揃え、気持ちを一緒にしたシーンもあった。
「この光景を多くの人たちに見てもらいたい。大会の価値、ラグビーの良さが詰まっていると思う」と話す大人の声が何人からも届く。
高校生たちにとっても、一生忘れられない夜になる。
太宰府では日本の伝統文化に触れていた。厳かな空気の中で無邪気に笑い、おみくじを引く姿も。
参道に連なるお店のあちこちに寄り、餅を頬張ったり、コンビニで買い食いしたり。ピッチ上での激しさ、逞しさとは違う、10代の素顔が見られた。
5月2日の東海大福岡高校訪問も、いい時間だった。
サウスランド ボーイズ ハイスクールの選手たちと在校生たちの距離は、スモールグループ内の自己紹介タイムや語学クイズですぐに近くなり、最後に選手たちが迫力満点のハカを披露すると、見つめる者たちの顔が紅潮していた。
忠北高校は韓国の文化やK-POPを女子生徒たちに披露し、和やかで楽しい空気を作った。
同校の津山憲司校長は、交流時のみんなの表情を見ながら、「授業より大事な時間もあるねえ」と笑顔でこぼしていた。
短い時間で、異国の地に友人ができた。そして、その縁は長く続く。
▼交流、経験の蓄積はAチーム以外でも。
日本の高校生たちは、試合日の合間の日もグローバルスタジアムにいた。各校Bチーム同士の練習試合がたくさん組まれているからだ。
5月2日の午前中、人工芝のフィールドA、フィールドBに、多くの高校生たちの姿があった。まるで、夏の菅平のような光景だ。
9時30分、石見智翠館と大阪桐蔭のB同士の試合が始まった。30分経つと、東福岡と東海大相模のBチームも加わって、相手を変えながら貴重な時間を積み重ねていく。
多くのチームがB、C、1年生チームを組んで、4月30日、5月2日、4日と、Aチームに劣らぬ経験をした。4日には、他県からそこに加わったチームもあった。
5月3日の大会の試合がすべて終わった後、フィールドAに、いろんなチームのTシャツを着た選手たちがいた。
ふたつのチームにわかれてサインを決めたり、ラインアウトやBKラインを合わせていた。
1チームから2、3人ずつが集まってコンバインドチームを作り、5月5日、ファイナルの前に『World XV Friendly Match』を戦うためだ。プールA、Bから集まった選手で構成されるチームは『SANIX BLUE』、プールC、Dからのチームは『SANIX WHITE』。各チームから大会中にプレータイムの少ない選手やBチームの選手などが推薦され、多くの観客が見つめる舞台に立つ。
練習に、サンダルでやって来た海外チームの選手たちがいた。
「はじめまして」の選手もいて、ウエアも、気持ちの入り方も、最初はバラバラ。そんな集団が、僅かな時間でチームとなり、キックオフの笛が鳴れば必死に戦い、仲間同士助け合う。
それがラグビーだ。
バーバリアンズや、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズなど、いろんなチームから集まった選手たちが、楽しさと勝負を追求する文化は、昔から、世界中で受け継がれている。
10代の心は、大人よりもっと早くひとつになる予感がある。
いろんなチームの指導者たちが、「大会初日と最終日では表情が違う」と言うのは、ラグビーの知見が増えただけでなく、内面の成長や価値観の変化によるものだ。
25回の歴史を持つ大会は、数えきれないほどの少年、少女たちを、大人への入口へ導いてきた。