コラム 2015.01.15

あきらめず、とどまらず。  藤島 大(スポーツライター)

あきらめず、とどまらず。
 藤島 大(スポーツライター)

 九州電力の攻撃に中国電力を見た。1月12日、トップリーグ自動昇格と入れ替え戦順位を競う「トップチャレンジ1」。九州電力キューデンヴォルテクスは、三菱重工相模原ダイナボアーズによく挑み、惜しくも散った。23-36。スコアそのまま、あるいは、それ以上の善戦を感じさせたのは、やはりメンバーの比較による。

 キューデンヴォルテクスに、いわゆる外国人選手は皆無。かたやダイナボアーズの先発には、日本国籍取得、アジア枠対象を含めて7人の海外出身者が並ぶ。背番号10は、オールブラックスのワールドカップ優勝の一員、スティーブン・ドナルドだ。リザーブにウェールズ代表キャップ87、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ同4のシェーン・ウィリアムズが控える。この世界の顔は、6点リードの後半27分に登場、1分後に決定的な務め(トライ)をさっそく果たした。

 中国電力は、昨年末、この前のステージ「トップチャレンジ2」で、釜石シーウェイブスに挑み、やはり最大級の健闘(24-34)を印象づけた。こちらも「海外出身選手」の比較で0対7(うちリザーブ3人)だった。どちらのチームにも「持たざる者の工夫」があった。攻撃の角度が鋭く、待ち構える防御の横をよくすり抜けた。

「日本の選手だけで存在意義を示そうと」(中国電力・神辺光春監督)。「外国人選手を多く擁する相手にいかに喰らいつくか準備してきました」(九州電力・平田輝志監督)。

 試合後のコメントに実感はこもった。平田監督はこうも続けた。「過去、九州電力に在籍してくれた外国人選手にはペネトレイター(突破役)を担ってもらっていた。彼らがいなくなりトライのとり方を個人の強さに委ねるのでなく、組織で崩さなくてはならない。その術(すべ)を1年間求めてきました」。富めぬ条件でもあきらめなければ知恵は生まれる。いや絞り出される。現有勢力を鍛え上げてトップリーグ4強入りを果たしたヤマハ発動機ジュビロの理詰めのゲインライン突破もどこか似ている。

 正月。「持てる者の凄み」にも接した。花園を制した東福岡高校は、少年ラグビーの潤沢な裾野から俊秀が集い、しかし、才能には安住せず、モール、ゴール前のピック&ゴーをほとんど用いることなく、爽快なまでのワイド展開、オープンなスタイルで、まさに好敵手を置き去りにした。見事だった。

 藤田雄一郎監督は言った。「どのチームもワイドな攻撃のディフェンスはあまり得意ではない」。限られた時間を、多くの仮想敵が駆使するモール対策と近場の崩しへの対処に費やすからだろう。東福岡は、持てる者の立場ながら安全策に走らず、結果、そのことが最も安全な勝利への道となりうると証明した。九州電力が「あきらめない」のなら、東福岡は「とどまらない」。我が世の春を謳歌、帝京大学の姿もまた重なる。ターンオーバーからの切り返しの的確さと速さは、パワーとスピードに恵まれながら能力任せの次元をとうに超える。こちらも見事だった。

 余談。東福岡高校の藤田監督は、新聞各社の「ひと」欄に備える取材の場において、こう明かした。7月1日から15日間の「博多祗園山笠」の期間は指導を外れる。筆者の前回コラムでも触れた博多の祭。それぞれの「流(ながれ)」が意気と粋を競う。この気鋭の指導者は、知る人ぞ知る「西流」の中核なのである。昔、元日本代表監督の大西鐵之祐さんがこう話すのを聞いた。「ライクじゃダメだ。ラブしないと」。ラグビーをラブせよ。それがコーチの心構えだ、と。花園優勝監督ももちろんラグビーをラブしている。そして山笠もうんとラブする。博多っ子に生まれた瞬間から、ほとんど酸素なのだ。きっと自分の結婚式に出なくてはならないようなものなのだろう。

【筆者プロフィール】
藤島 大(ふじしま・だい)
スポーツライター。1961年、東京生まれ。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。著書に『ラグビーの情景』(ベースボール・マガジン社)、『ラグビー大魂』(ベースボール・マガジン社)、『楕円の流儀 日本ラグビーの苦難』(論創社)、『知と熱 日本ラグビーの変革者・大西鉄之祐』(文藝春秋)、『ラグビーの世紀』(洋泉社)、『ラグビー特別便 1986〜1996』(スキージャーナル)などがある。また、ラグビーマガジンや東京新聞(中日新聞)、週刊現代などでコラム連載中。J SPORTSのラグビー中継でコメンテーターも務める。

(写真:三菱重工相模原×九州電力/撮影:松本かおり)

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