【コラム】臨機応変にして変幻自在。ワイルドナイツの強みとは。
決まりきった型やパターンがあるわけではない。だからこそ相手にすれば対処のしようがない。埼玉パナソニックワイルドナイツの試合を見ていると、いつもそう感じる。
多彩なキックを駆使して効率よく陣地を進め、いいフィールドポジションで持ち前のディフェンスの強みを最大限に発揮する――というゲームメイクの大枠ははっきりしている。
しかし、そこから先の組み立てはほとんど即興に近い。頑健なコンタクトと正確なスキルでボールをキープしつつ機をうかがい、相手に隙が生まれるやただちに反応、連動して仕留めきる。その対応力とプレーの精度がずば抜けて高い。
ラグビーマガジン5月号の企画で、3月9日におこなわれた東芝ブレイブルーパスとの全勝対決(36-24)のゲーム分析を、元日本代表コーチで慶應義塾大学の監督などを歴任した林雅人さんに聞いた。両チームの特徴が鮮明に浮かび上がる興味深い数々の解説の中でも、次の言葉が特に印象に残った。
「弱者の兵法では、受けに回れば太刀打ちできないので、自分たちから仕掛けて望む未来を作らなければなりません。だからセットプレーから3次攻撃以内に仕留めきることが重要になります。それ以上フェーズが重なると、ポジションがバラバラになるのでプレーを準備することができないからです。でもワイルドナイツは、訪れた現実の中で目の前のチャンスをものにできる。だからすごいサインプレーも必要ない」
なるほどワイルドナイツのアタックに、スクラムやラインアウトから奇抜なムーブを仕掛けてくるイメージはない。フィニッシュやその直前の崩しの場面で目を見張るようなスペシャルプレーが飛び出すことはあっても、そこに至るまでの流れはオーソドックスそのものだ。フィジカルのバトルでじっくりと圧力をかけ続け、相手が我慢できなくなったところで一気にギアを上げてたたみかける。まさに「目の前のチャンスをものにできる」チームである。
ただ、何もかもその場のひらめきで対処しているかといえばそうではないようで、「この状況になればこうやって崩しきる」というプレーのパターンはいくつも準備しているそうだ。臨機応変にして変幻自在の連携をリードするSO松田力也は、その要点をこう説明する。
「練習の時から僕が思っていることを周囲に伝えたり、向こうが思っていることを僕に伝えてもらったりして合わせたプレーを、試合で出すという流れです。ダミアン(デアレンデ)やディラン(ライリー/ともにCTB)と、プレー中もプレーが切れている時も常にトークをしていますし、なおかつ質の高いコミュニケーションができている」
驚かされるのはその抜き出たコミュニケーション能力だ。極めて強度の高いコリジョンが連続するハイプレッシャーの状況下で意思の疎通を図り、判断を共有して遂行するのだから、並大抵のことではない。それをチーム全体として突き詰め、完成させたところが、現在のワイルドナイツの強さの真骨頂だと感じる。
松田はいう。
「もちろん僕たちも分析はしますが、相手も同じように分析して準備してきます。実際の試合でこちらの分析とは違うことを相手がしてきた時にどう対応するかということを、経験ある選手を中心にパッとコミュニケーションをとって切り替えられるのが僕たちの強み。そこは長いことずっとやってきているので、全員がつながっていけるのだと思う」
3月22日金曜日のナイトゲーム。昨季ファイナルで苦杯を喫しリーグワン連覇を阻まれたクボタスピアーズ船橋・東京ベイとの第11節で、ワイルドナイツは8トライを挙げる猛攻を見せ55-22の完勝を収めた。
長く戦列を離れていたFLベン・ガンターやWTB竹山晃暉がこの試合で復帰し、FB山沢拓也も久しぶりのスタメンという状況でも、チームの強みである対応力と連動性は微塵もぶれなかった。
「チームのパフォーマンスに満足しています。(中略)コンディション不良だった選手がどんどん戻ってきて、彼らのプレーする姿を見られたのもよかったし、入替があった後もプレーの質を保てたところがよかった」(ロビー・ディーンズ監督)
ただでさえ頭ひとつ抜けているのに、いったいどこまで強くなるつもりなのか。他チームサポーターの嘆きが聞こえてくるような戦いぶりだった。