リッチー・モウンガ警戒のワイルドナイツ長田智希。意識するのは「やり切る」こと。
そこに雑念はなかった。
一昨年度まで2季連続で国内タイトルを制覇する埼玉パナソニックワイルドナイツは、3月9日、本拠地の熊谷ラグビー場で国内リーグワン1部の第9節に挑む。4日には会場近くのグラウンドで、前節明け最初の調整をおこなった。
今度の相手は、昨季5位の東芝ブレイブルーパス東京。今季はどちらも開幕8連勝中とあり、今度の80分へはスポットライトが当たる。
「全勝対決として注目され、いろんな声があるとは思いますけど…」
こう切り出すのは長田智希。昨季新人賞を獲った24歳だ。ワイルドナイツの一員として述べる。
「いままでと変わらない、と言ったらおかしいですが、自分の役割をしっかりとやり切る。求められる部分をしっかり遂行する」
身長179センチと大柄ではないが、フットワークを活かして小さな穴を突く、味方の蹴った弾道を追うといった無形の威力を発揮する。球を動かすBKで、複数のポジションをこなす。
最近よく任されるのは、タッチライン際のWTBだ。攻めてはスペースに球を呼び込み、守っては前衛でタックルをしたり後衛でキックを処理したりと八面六臂に動く。
「WTBのポジションは予測するのが大事。相手のプレーメーカー ——9、10 番(司令塔団)—— を見ながら、考えてやっています。ただ、まだまだ予測が得意だとは思わないですし、勉強しながらやっています。(長年ワイルドナイツでWTBや最後尾のFBを務める)野口竜司さんに立ち位置のことを聞いたり、(実戦形式の)練習で相手になったSH(9番)に『そこに立たれると、こっちにとっては蹴りやすいよ』と教わったり」
今度の対戦では、相手のSOにニュージーランド代表だったリッチー・モウンガがいる。身長176センチ、体重83キロの29歳。来日1年目にしてリーダー格の風情だ。周りと連係を取りながら巧みなパス、足技を絡める。
ワイルドナイツは、自前の守り方を全うする流れでこの名手を警戒する。長田はこうだ。
「動きを見てどこへ蹴ってくるかなどを予測することは、大事にしたいです」
出身の東海大仰星高、早大で主将を務め、昨年を飛躍の年とした。5月までのリーグワンで新人賞を獲得し、日本代表に初選出されるや9月からはワールドカップにも出た。
もっとも当の本人は、悔しさをにじませる。
旧トップリーグ時代より続き3連覇が期待されたリーグワンでは、決勝でクボタスピアーズ船橋・東京ベイに15-17で敗れた。普段は堅実さで鳴らす選手にエラーが重なった悲劇を、このように振り返る。
「意見はそれぞれだと思いますけど、僕自身、去年のシーズンでは自信があったなか、決勝ではワイルドナイツとしてベストのパフォーマンスができなかった。結果として負けていますから、過信していた部分はなかったか、本当に一番の準備ができたのか…というところで、考えるべきものはたくさんもらっています。あの試合は、すごく悔しいです」
フランスで開かれたワールドカップでも、自らの働きに「納得がいっていないです」。ジャパンが2大会ぶりに決勝トーナメント行きを逃すなか、自身も徐々に出番を失った。プール戦最後のアルゼンチン代表戦では、大会初のベンチ外を味わった。
遠征先では、サッカー日本代表を支えたことで知られる西芳照シェフのおかげでおいしい食事に舌鼓を打ちながらも体重を減らしてしまった。
リーグワンでの公式登録は「90キロ」ながら、現地では「86」キロまで落ち込んだというのだ。不慣れな海外生活のためだ。
レビューの言葉には、「遂行」「やり切る」というフレーズを重ねる。今度のブレイブルーパス戦への展望と似た論旨にも映る。
「それが(うまくいかなかった理由の)全てではないですけど、いつでも体重を含めて自分のベストの状態で臨まないといけない。大きな舞台でも自分の、チームのやることをいかにできるか(が大事)。緊張があって、ミスが起こることも含め、やるべきことの遂行力が下がってしまう(のを避けたい)。ワールドカップでの日本代表は自分たちのゲームプランを最後まで遂行できなかったから負けたと思いますし、僕も自分の役割をやり切れなかった。自分たちで決めた自分たちの仕事、ポジションごとの仕事をやり切ることが、すごく大事だと思います」
向上心を保つ。12月中旬からのリーグワンにおいては、かねて定評のある技巧や仕事量に加え、強さ、速さをにじませる。
自己評価は、厳しい。
「むしろ、まだまだ足りないなと感じることが多いです」
2日の第8節では、対する静岡ブルーレヴズきっての強力WTBであるマロ・ツイタマの激しいタックルを浴びながらも、倒されず、そのまま前進しながら、「(最初の)ヒットでは負けている。その後、うまくバランスは保てましたけど」。その後、ツイタマを正面からのタックルで仕留めながら、敵地のヤマハスタジアムで45-19と勝利も、当人は反省しきりだった。
昨秋フランスから帰国後、段階的にウェイトを整えてきた。最高潮を迎えるのはこれからだ。
「こっち(埼玉)に戻ってきてやっと自分のベスト体重に戻して、まず、そこからスタート…と。いまは88~9キロです。トレーニングはチームで課されたものに取り組みつつ、故障しやすい箇所の補強を採り入れるイメージです」
叶えたい目標がある。リーグワンで頂点に立ち、その流れで再び日本代表へ入りたい。
ジャパンではエディー・ジョーンズが9年ぶりにヘッドコーチに就任。ワイルドナイツには2015年までのジョーンズ体制を経験した先輩も多く、長田も指揮官の人となりについてヒアリング済みだ。
本格始動前から国内外を問わず動き回るボスについて「自分でハードワークされる人だと聞いています」と笑い、こう述べる。
「僕が大事にしているのは、その場所で求められた役割をしっかりやり切ること。ワイルドナイツでも、ジェイミージャパン(ジェイミー・ジョセフ率いる前体制の日本代表)でも、そうしてきました。これからもエディーさんが求めるものが何かを理解し、その役割を遂行するだけです」
もちろん地に足をつける。「それ(日本代表選出)を叶えるには、ひとつひとつの試合でいいパフォーマンスをすることが大事」。まずは今度のブレイブルーパス戦へ集中する。
「ワイルドナイツで、優勝という欲しい結果を得ることが一番の目標ですね」
現在、貴ぶキーワードは「attitude」。全力で戦う姿勢、態度を示す。