道を信じる。全勝キープのブレイブルーパスが昨季王者スピアーズを下すまで。
昨季王者が焦点を絞った。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイは1月7日、神奈川・等々力陸上競技場でのリーグワン第4節で何度も楕円球を手放した。自らの意志で。
チームによっては多彩な攻め手を見せる中盤からも、高い弾道、長距離砲のキックを打ち込んだ。目下、全勝という東芝ブレイブルーパス東京の後衛に圧をかけた。
「相手の強いFWを(後ろに)下げ、自分たちの大きなFWを前で戦わせたいというの(意図)がありました」
話すのは立川理道。主将兼司令塔のSOとして計画を主導した。
今回は、登録の23人中2メートル超を2人ずつ擁する者同士の対戦に臨んでいた。彼我の戦力構造を鑑み、極端な策を打ったわけだ。今季はここまで1勝2敗と黒星先行。ディフェンディングチャンピオンにして挑戦者の風情だ。
先制したのはそのスピアーズだった。立川の左隅へのグラバーとWTBの木田晴斗のチェイスにより、敵陣ゴール前左でスクラムを獲得。局地戦に持ち込んだ。新加入のHOでニュージーランド代表のデイン・コールズがフィニッシュしたのは、前半17分のことだ。直後のコンバージョン成功で7-0とした。
蹴られたほうのFBへ入る松永拓朗は、「(ブレイブルーパスの防御の)ラインスピードを受けないための、スピアーズの作戦だったのだと思います」。反省も口にした。
「自分自身、もう少し駆け引きして、もっと楽に(キックを)処理できるところはありました」
ただし松永とともに守勢に回っていたLOのワーナー・ディアンズは、異なる感覚を抱いた。
失点するまでの間、敵に与えた得点機をしぶとく摘み取っていたからだ。
「16分も自陣で攻められて、1トライしかあげていない。ディフェンスは、自信になった」
ピンチを乗り越え、チャンスをつかんだ。
向こうのエラーを機に7-7として迎えた29分、自陣10メートル線付近左中間でそのディアンズが迫る走者をつかみ上げた。攻撃権を得た。ここから繰り出すのは、お家芸のデザインされたアタックだ。
2フェーズ目で受け手と投げ手の交差する動き、おとり役の走り込みを交えることで左端にフリーのランナーを3人も残した。いずれも速さと技が強みだった。桑山淳生、濱田将暉の両WTBが順にゲイン。最後はFBの松永が仕留め、まもなく14-7と勝ち越した。15番はこうだ。
「コーチ陣にオーガナイズしてもらって、僕たちがそれを信じて遂行する。いい関係性ができています」
これで無敗の側が主導権を握った。スクラムこそ一時的にコールズらの押しに苦しむも、攻めに転じればたびたび数的優位を作り出した。時折、パスが乱れたことで得点こそ伸ばせなかったが、桑山はその過程に手応えがあったという。
「自分たちの芯となる部分を出せたことが、勝因だったと思います」
17-13とリードして迎えた後半24分。敵陣10メートルエリア左のラインアウトから中央突破を決めるや、ニュージーランド代表SOのリッチー・モウンガの右足で右奥の空間をえぐる。スピアーズ陣営の捕球動作が滞るのを見逃さず、濱田のトライなどで24-13とした。
長身選手がしのぎを削り合うラインアウトも、要所は狼たちが締めた。
自陣22メートル線付近右の相手ボールの1本では、前方に入ったFLのシャノン・フリゼルがスティール。この領域を引っ張るディアンズは明かす。
「相手は試合を通し、同じようなオプションを採っている。次、『ここ』(読み通りの箇所)に来たら、(フリゼルを)上げよう…と」
終盤は対する木田の左足での侵攻、モウンガの被イエローカードと複合的な要素が重なり、24-20と迫られたブレイブルーパスは、残り時間が4分となるや逃げ切り策に出た。松永がカウンターアタックでハーフ線を通過すると、一転、FWがじっくりとラックを連取。時間が過ぎるのを待った。
この手は身体的な負荷が高いとあり、本来なら1、2分程度が限界と言われる。獅子奮迅の活躍だったNO8のリーチ マイケル主将も、この決断を「正直、4分半もあの攻め方は…。やっちゃいけない」と後述する。渦中、松永は、迷いを断ち切っていた。
「敵陣でラグビーができるようになった。あとは継続しようと。結果、近場、近場で…。だいぶ、長く感じましたね」
クラッシュ、クラッシュ、またクラッシュ。追う立場だったSHの藤原忍は「あそこは僕たちが下(ボール保持者の足元)にチョップタックルに入って、(倒れた選手から球を)奪いにいかないといけなかった。それが上で付き合ってしまった(長く自立させた)かなと」。スコアを変えずにノーサイドを迎えた。
求められるのは戦法の正しさより、戦法への忠誠心。それがこの競技の普遍か。リーチが「やっちゃいけない」と見返す選択も、「あとは継続」と信じて採用すれば最適解となりうる。
苦しんでいた一角獣たちが健闘したのも、定められた航路にまっしぐらに進んだことと無関係ではあるまい。
2勝目がお預けとなってからも、立川は「結果がついてこないと不安も生まれると思いますが、まだラウンド4。先を見すぎずに自分たちのやることを明確にすることが大事。苦しくないと勝てないと思うので、苦しみを味わいながら皆で勝ちたいです」。激闘が名言を絞り出した。