オールブラックスはいつでも私たちのヒーロー! 優勝逃すもNZ国民はオールブラックスを称賛
11月1日の午後、ラグビーワールドカップ2023フランス大会を終えオールブラックスがニュージーランド(以下、NZ)に帰国した。到着したオークランド国際空港には、多くのファンが温かく迎えた。約2カ月間の戦いを終え、疲弊しているオールブラックスに笑顔が戻った瞬間だった。
オールブラックスは、10月28日(フランス時間)のワールドカップ決勝で11ー12のスコアで南アフリカに敗れ、ウェブ・エリス・カップをNZに持ち帰ることはできなかった。わずか1点差の敗戦でショックを隠し切れない選手たち。同様にNZ国民も失望した。中継を見たファンの中には脱落する姿もあった。Sky Sports NZのコメンテーターも言葉にしようとするものの、なかなか出てこない。
決勝の後、キャプテンのサム・ケイン(FL)は、こう語った、「(決勝のことを)一生背負っていくことになる」。 とても重い発言をした。
ケインは、ワールドカップの決勝で史上初めてレッドカードを受ける選手となった。数的不利になりチームが苦戦を強いられた。ケイン自身は、決勝の結果の責任は、自身にあると重く受け止めた。
そして世間(NZ国内のラグビーファン)の一番の敵になると予期しての帰国となった。
しかし、空港では、オールブラックスを温かく迎えるファンの姿があった。主将のケインに対しても変わらず同じだった。その様子をみてケインは唖然とした。
この光景を見て16年前を思い出す。2007年のラグビーワールドカップでオールブラックス史上最低となる準々決勝敗退(フランスに敗戦)をした。NZ国内のラグビーファンの失望の大きさは、今でも忘れられないくらいだ。
しかし、NZに帰国(その年は、クライストチャーチに到着)してきたオールブラックスに対してファンは温かく出迎えた。
当時のキャプテンは、リッチー・マコウ。申し訳なさそうにグラハム・ヘンリーHCと到着ロビーを歩いてきた。何が起こるのだろうという嫌な予感とは裏腹に温かいファンの姿があった。
その時のマコウの唖然とした表情が印象的だった。同時に何かを噛み締めた様子がうかがえた。この後にマコウが超一流のラグビーマンとなっていく。そしてオールブラックスのキャプテンとして2011年、2015年のワールドカップ連覇へと導いている。
ケインとマコウは、背番号7で同じポジションだ。グレイト・オールブラックスとなったマコウと何かしら比べられてしまう。けがが絶えず苦しい時期が続いた。しかし、今大会の準々決勝のアイルランド戦では、渾身のディフェンスを見せて勝利に貢献し復活劇も見せた。あの試合はまるでリッチー・マコウのようだった。
◆批判どころかオールブラックスを称賛したNZの国民
ワールドカップの前年となる2022年のオールブラックスの成績は、史上初をいくつか並べるほど歴史的敗戦をしてきた。それもありNZ国内のラグビーファンは、今大会はそれほど期待していなかった。ファンだけでなくメディアの見方も同じだった。
しかし、予想を覆してオールブラックスが準々決勝でアイルランドに勝利した(28ー24)。
試合終了間際のアイルランドの猛攻を反則ひとつせず、粘り強いディフェンスで凌いだ勝利だった。この勝利からNZ国内の雰囲気が変わり優勝してくれるのでは、という期待に変わった。
オールブラックスはノックアウトステージに入ってからギアをひとつ上げた。
しかし、決勝は、思うようにはいかなかった。気負い過ぎた感もあり、開始早々にイエローカード、そして前半の終盤にレッドカードの判定を受けるなど、規律の乱れから失点を重ねることになった。
南アフリカも規律面で乱れた時があったが、さほど影響しなかった。同じようなヘッドコンタクトの危険なタックルがありながらもカードの色が違う判定になった。レフリングというよりTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)判定に泣かされた試合だった。NZ国内は、主審のウェイン・バーンズのレフリングは評価しているものの、TMO判定には納得がいってない様子が強く感じられた。
決勝でオールブラックスは、試合の半分以上の時間帯を14人で戦うことになったが、それを感じさせないほど互角に戦っていた。しかし、トライチャンスが何度かありながらも取れなかった。
ゴールキックも2度わずかに外れた。準々決勝、準決勝で取るべきところでしっかり得点していたことが決勝ではできなかった。
これは、決勝のプレッシャーというものかもしれない。それよりも、南アフリカの粘りのディフェンスがオールブラックスの持ち味を封じることに成功したと言えるだろう。
ワールドカップで素晴らしい試合を見せてくれたオールブラックス対してNZ国民が批判を向ける様子はない。激戦の大会の中で決勝まで勝ち進んでくれたことだけでも称賛に値する。
決勝で負けてもオールブラックスを称賛するファンの声がTVやラジオからたくさん聞こえてくる。昨年までの不振を見ているだけに、ここまで復活したことに対しての驚きと共に「感動をありがとう」というような感じが伝わってくる。オールブラックスは、どんな時でもNZ国民のヒーローであることには変わりない。
もちろんNZ国民もカップを待ち望んでいただけに、がっかりした気持ちは大きい。
それでも、王国のラグビーファンは、選手たちの気持ちをしっかりわかっている。
それは、チームが帰国した時の温かい出迎えが物語っていた。選手たちはファンに癒された。そして選手たちは、ずっと応援してくれるファンに感謝した。
期待が大きいだけに、負けると批判されることもある。しかし、今大会で見せたオールブラックスの復活劇はNZ国民の心を大きく揺さぶった。
昨年、成績不振により、指揮官のイアン・フォスターHCは解任寸前だった。キャプテンのケインも調子が上がらず批判の的になった。
この二人が苦境を乗り越え、チームがひとつになった。良い意味で期待を裏切りワールドカップの決勝まで駆け上がっていった。おとぎ話のようなハッピーエンドの結末にはならなかったが、ニュージーランドラグビーの底力を感じることができたと思う。
来季からオールブラックスの指揮官は、スコット・ロバートソンがHCに就任する。今までの体制と大きく変わる。どんな采配をしてくれるのか今から楽しみだ。
トークバックラジオから聞こえてくるのは、来季のオールブラックスの15人のセレクションの話題。
オールブラックスの選手たちも、NZ国内のラグビーファンも立ち直るのに、もう少し時間が必要かもしれない。それでも、しっかりと前を見ている姿が見える。来年以降のオールブラックスも楽しみだ。