「やらかし」あれば中心選手もメンバー外。流経大、新指揮官のもと新機軸打ち出す。
ある日、寮で朝食会場に出てこない部員がいた。
流経大ラグビー部の池英基新監督は、そのかすかな弛緩を見逃さなかった。
「お前ら、勝つ気あるのか? ラグビーはフィジカルのスポーツなのに、朝ご飯を食べないなんてありえないだろ。問題が起きた後に『許して。ごめん』では遅い。4年生がちゃんと見回してやっていこうよ」
まもなく迎えたのは、加盟する関東大学リーグ戦1部の大一番だった。10月29日、埼玉・セナリオハウスフィールド三郷。2、3位を争う東洋大を47ー38で下した。部に少しずつ戒律を植え付けている池は、こう総括した。
「自分たちの流れを最後まで続けられなかったことなどいろいろなレビューポイントはありますが、厳しい試合を勝ち切れたのは次につながると思います」
茨城県龍ケ崎市で活動するチームに変化が起きたのは、昨季終了後のことだった。
大学当局の意向もあってか、2005年から指揮を執った内山達二前監督が昨季限りで退任した。空いたポストに就いたのが、韓国出身の池だった。
かつて選手としての活躍を目指して来日した池は、2011年にこのチームに入閣。2017年よりヘッドコーチを務めていた。
今度の監督人事を「現場だけではなく、学生の就職、(新入生)リクルートもしなくてはならない。責任感が全然、違います」と重く受け止めたうえで、クラブの改革に手を付けた。
100名超の全部員が暮らす寮へ、それまでなかったという門限を設置。朝と夜には、全部員が揃っているかを「点呼」で確かめることにした。
大学の単位のほとんどを履修した4年生が各教室へ出向き、下級生が授業に出ているかをチェックするようにもなった。スタッフとリーダー陣でそうすると決めた。
前任の内山がその時々の4年生へ一任していたグラウンド外の規律遵守に、指導陣が率先して携わるようになったのだ。
生活のルールを守れない選手は、試合のメンバーからも外した。
新チームを始動させる3月の段階で、池はリーダーたちにこう述べていた。
「例えばリーグ戦の大事な試合の前に、留学生が何かをやらかしました。たとえその試合に負けるとしても、俺は彼のことを出さないからね。『この選手は許してください』はなし。心配なら、そうならないように仲間として管理しなさい」
練習内容も様変わりさせた。
対戦相手へのスカウティングに基づくシミュレーション、その時々の課題に的を絞ったドリルを多く採用した。春先はタックル、秋口には接点へのサポートプレーを反復練習した。
池は2015年、韓国代表のヘッドコーチ格となったことがある。その際は、ワールドカップ・イングランド大会で3勝するより約5カ月前の日本代表と対戦。30ー56と迫った。分析力には定評がある。
描いたプランを絵空事にしないためには、やはり、厳しさが必要と考えるのだろう。
定期的にフィットネステストをおこない、目標値に達しなかった選手には追加のランニングメニューを課した。全体トレーニング前、もしくは昼休みに、キャンパスに併設のグラウンドで走らせた。
ある部員がエクストラの走り込みの末、テストの数値をクリアした。指揮官はスタッフとともに、その選手を讃えた。
「ほら、やればできるじゃないか」
新しい流れを受け入れたひとりは、主将の原田季弥だ。札幌山の手高でも同職を担ったFLで、発言力とタフさが光る。
原田の脳裏には、昨季のレビューが焼き付いている。
前年度の最上級生には、付属の流経大柏高が初めて全国4強入りした際の中心メンバーがずらり。対外的には「勝負の年」と見られていたが、最後の大学選手権では3回戦敗退。8強でシーズンを終える慶大に、5-45と屈していた。
その際の主将だったCTBの土居大吾が、「人として当たり前のことができていなかったから、ほころびが出た」と振り返っていたのだ。
原田も同感だった。普段の振る舞いをチェックする池にうなずくのは、自然な流れだった。急にできたルールに戸惑う部員がいたら、向き合って納得させると決めた。
「口を酸っぱくして言うしかなかった。変えなきゃいけない」
リーグ戦の開幕を9月に迎えた。10月最後の東洋大戦をものにして、開幕5連勝を決めた。2試合を残し、5連覇中の東海大を勝点3の差で追う。
堅調に白星を積み上げるのは昨季と同様も、日々を過ごす皮膚感覚が異なると池は言う。
「今年は原田君以外の4年生が皆、静かで、言葉も少なかったのですけど、リーグ戦を通してどんどん本音で意見を出し合ったり、リーダーシップを発揮したりと、やっと必死になってきていると感じています。これからも成長していくと思っています」
冷静に振り返れば、朝食の件で問題があったのは「10人のうち1人くらい」に過ぎない。組織の見直しはポジティブに進んでいると池は見る。
「グラウンドの雰囲気、寮生活も変わってきた。小さな問題はあるものの、いままでと比べたら大きな問題はなく――まだ満足ではないですが――順調に向かっている」
HOの作田駿介副将は、「成果が出れば、新しいルールにも皆が納得をしてくれる」。池の持ち込む池の文化を定着させるためにも、レギュラー組は結果を出すべきだという。
持ち場のスクラムを安定させながら、決意を明かす。
「こういうことをすればいい結果が出ると、体現してあげたい。試合のメンバーに入った以上は、最高のプレーをしなくてはいけない」
11月12日、東京・夢の島競技場で日大とぶつかる。