国内 2023.11.05

東海大に黄金新人。コンラッド・セブンスターがもたらす野心と影響。

[ 向 風見也 ]
東海大に黄金新人。コンラッド・セブンスターがもたらす野心と影響。
191センチのFB、東海大のコンラッド・セブンスター(撮影:志賀由佳)


 地に足がついていたというのだ。

 東海大ラグビー部の木村季由ゼネラルマネージャー兼監督は、新入生のコンラッド・セブンスターに太鼓判を押す。

 入試前に面談をした時点で好感触があったと、人物像重視の木村は言う。

「ビジョンを持っている学生だった。僕が1を質問したら、10の答えが返ってきました」
 
 ワールドカップ2連覇中の南アフリカから、NO8とCTBができるヘンドリック・スミスとともに迎え入れた。時間を共にするほど、セブンスターには「日本人選手にも見習ってほしい」と思える側面がたくさんあると感じる。

「合宿中にも(大学の)課題をしている。非常に勤勉です」

 日本語は目下、習得中とのこと。そのため「体育学部スポーツ・レジャーマネジメント学科」の授業に対応できるかは、気がかりとなろう。もっとも、それとて大きな問題にはなるまいと体育学部教授の木村は強調する。

「(授業は)教員ごとの対応に任せています。英語で大丈夫な方もいますし、(授業後の提出物に)少しでも日本語を書きなさいと言われる場所では(本人が)そのようにしています。まだ1年生なので周りのサポートを受けながらやっていますが、あと1~2年したらだいぶ、ぐっと(語学力も)伸びます」

 戦力としても期待する。加盟する関東大学リーグ戦1部が中盤戦に差し掛かるや、セブンスターは先発の座をつかんだ。

 グラウンド最後尾のFBに入り、ブロンドの襟足をなびかせ防御を置き去りにする。身長191センチ、体重93キロと大柄なうえ、モニュメント高時代に測ったという100メートル走のタイムは「12秒くらい」とのことだ。

 右足を飛び道具にする。陣地の獲り合い、ペナルティキック時のタッチへの蹴り出しで、長距離砲を放つ。

 さらには…。

「プレーのレンジが広い。味方にパスミスがあっても、それをさばける懐の深さがある。いろんなことになじんでくれば、もっと能力を発揮できると思います。大きく育てたいです」

 木村がこのように称賛する大器は、10月28日、埼玉・セナリオハウスフィールド三郷にいた。この秋3度目の先発だった。日大とぶつかり、1点差を追う前半29分に勝ち越しトライをマーク。そのままリードを保ち、50ー34と打ち合いを制した。

「完璧なゲームではなかったけど、まずは勝ててうれしい。リカバリーして、次の試合も頑張りたい」

 留学経験のあるWTBの岡村優太の通訳を介し、報道陣に発した。

ルーキーながら肝は据わっている。谷口宜顕主将とタッチを交わす(撮影:志賀由佳)

 同じ南アフリカ出身で日本代表となったディラン・ライリーを意識していると話し、将来へのビジョンをこう口にした。

「エージェントを介して、この国で将来を開けることを期待してきました。日本代表でも、南アフリカ代表でも、なれるのであればどちらにでも」

 日本代表資格を得るには、5年以上の継続居住が認められなければならない。未来の選択肢を広げるには、オフシーズンの帰省を最小限に留める必要がある。

 その件について問われると、セブンスターは「日本に来る時点で、南アフリカに戻るのは難しくなると理解していました」と強調する。
 
「日本で周りにいるコーチ、仲間はいい人たちです。練習して、部屋へ帰っていく。その当たり前の日々が楽しいです」

 日本へ来て楽しんでいることを聞かれれば、やや表情を緩めた。

「海外に出るのも今回が初めてです。当初から覚悟を持って来日したものの、最初の5カ月は苦労しました。コミュニケーションが取れなかった。しかしいまは周りとも仲良くなり、少しですが言葉もわかるようになりました。いろいろな場所への行き方もわかってきたので、それも楽しんでいます。テレビや映画、インターネットでしか見たことのなかったスカイツリー、東京タワーに実際に出かけられました。素晴らしく光栄な気持ちでした」

 レギュラーの枠は限られている。誰かが抜擢されると、それまで試合に出ていた選手の立場は変わる。

 東海大ではセブンスターがFBに選ばれたことで、もともとFBだった谷口宜顕主将がWTBに回った。かねてWTBの座をつかんでいた2人のうち、1名がスターターから漏れた。

 リザーブの8枠はFW第1列、SHといった専門職の選手、それ以外の位置を数多くこなせるユーティリティプレーヤーによって埋まるケースが多い。WTBのスペシャリストがスターティングメンバーになれない場合、ベンチにも加わりづらくなる。

 チームはセブンスターが15番、谷口が14番をつけるようになって3試合を消化している。

 その間、今回セブンスターの通訳をしてくれた岡村は、競争を強いられていた。

 昨季から快速コンビを組んできた中川湧眞と、11番の座を争っている。10月21日の立正大戦では、岡村がメンバーから外れた。

 中学時代にイングランドに留学していた岡村は、練習や控え組によるジュニア選手権での試合でアピール。今度の日大戦で戦列に戻ることができた。

「出たり出なかったりしている状況ではありますけど、自分が11番だぞという思いでやっています」

 綺羅星の台頭はその周りにもドラマを生む。セブンスターを擁する東海大はここまでリーグ戦で開幕5連勝中。11月12日には神奈川・小田原市城山陸上競技場で、昨季敗れた東洋大に挑む。6連覇へまい進する。

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