国内 2023.10.20

指揮官が日本代表デビューへ太鼓判。帝京大・江良颯、機能的なスクラムワークで光る。

[ 向 風見也 ]
指揮官が日本代表デビューへ太鼓判。帝京大・江良颯、機能的なスクラムワークで光る。
2023年度帝京大のキャプテンを務める江良颯。10月15日の筑波大戦から(撮影:藤井勝治)


 圧巻だった。

 江良颯。帝京大ラグビー部の主将である。大学選手権3連覇を狙うクラブで最前列中央のHOを任される大阪府出身の22歳は、10月15日、群馬の森エンジニアリング桐生スタジアムで筑波大に73-0と完勝。自身も持ち味を活かした。

 身長171センチ、体重102キロと決して大柄ではないものの、強烈なコンタクトで相手を蹴散らした。前半13分にチーム2本目のトライを、同20分には得点につながるビッグゲインを決めた。

 その後も好突進を披露し、最大の持ち場であるスクラムでも光った。8対8で組む攻防の起点で終始、主導権を握った。

 試合後の本人は、「まだ、個人個人で戦ってしまっている感じがある」。本来ならもっと左右の選手とつながることができたし、いま以上に後方の押しを促せるはずだと話す。

 満足しないのは、目標設定が高いためだ。将来の日本代表入りが期待されるなか、ワールドカップの話題にこう応じた。

「憧れの舞台で戦っている選手を見ると、僕もあそこに出てみたいと思う。帝京大の先輩がHOで出ているのも刺激になりました」

 今年9月に開幕のフランス大会にあって、日本代表はHOに堀江翔太、坂手淳史、堀越康介と帝京大のOBを並べた。

 特に2戦目以降から3試合連続で先発の堀江は、4大会連続出場の37歳。グループリーグ2勝2敗と決勝トーナメント行きを逃すなかでも、体重差に勝る相手に好スクラムを組んだ。

 長谷川慎アシスタントコーチの教える、互いがつながって低くまとまる理論を実践。同時に、相手の圧のかけ方に屈しないよう適宜、工夫を施していた。後輩の江良は、その様子に「いろんな技術を使ってはるな…」とうなった。

「たぶん、いろんなカードを持ってらっしゃるのだと思います。(仲間の)まとめ方のカード、『相手がどうしてきたら、こうする』のカード…。そして長谷川慎さんの組み方を一番、理解しているから、安定させられるのだろうな…とも。あそこ(ワールドカップの舞台)にいる人と比べると、自分はプレーのこだわり、質がまだまだ足りていない。すべてを高めていきたいです」

 当の本人が謙遜する一方、江良をワールドカップのメンバーに「選んで欲しかったなぁ」と推すのは相馬朋和だ。

現役時代は日本代表の右PRとして、2007年にあったワールドカップのフランス大会などでスクラムを組んだ。昨年度からは母校でもある帝京大の監督となり、江良を指導している。

「連れて行ってあげて欲しかった。ただ、HOの3人が帝京大のOBです。(江良を入れる代わりに)誰を落とすんだと言われると、複雑な思いになりますが」

 教え子を褒める流れでこうおどけながら、江良のスクラムワークについて解説をしてくれた。
 
 他大学のコーチにも「強い」と認められる江良には、「ファンクショナルストレングス」があるという。

「機能的に身体を使える、ということです。スクラムのなかで身体をどう使い、結果として何を得るのか、を、身体で理解している」

 その時々で相手が組むタイミング、押す角度を変えてくるなか、それらに瞬時に対応できるというわけだ。

 例えば、対戦チームの最前列の選手が自軍の右PRだけを狙い撃ちするように押してくるとする。その際は、自身と左PRの立ち位置をより右PRに密着させるのが対応策のひとつとされる。たった一人を苦しめようとする相手を、最前列の3人で跳ね返す論法だ。

相馬によれば、江良は、かように複雑な対応策を瞬時に発動させられるようだ。

「言葉で教えたとしても、反応速度(にずれ)があると後手、後手になってしまうんです。戦いは常に先手を取れば勝つわけで、言葉で聞いて反応しても、間に合わないわけです。ただ江良は、それ(その時々で必要な動き)を感覚的に知っていて、反応できる人間だから強いわけです」

「もちろん我々(コーチ)は言葉を使い、皆が理解できるように助けようと思うのですが、それでは限界がある。そして、私は颯に対してそれ(組み方についての助言)はしたことがない。彼はそれを理屈でわかっていて、かつ身体も反応できるから」

 重要なのは、左右に両PRを携えながら「反応」に即した組み方ができることだ。スクラムがひとりでできるプレーではないのを前提に、相馬は続ける。

「だから彼は、(両PRとの)バインドを大切にするんです。両PRの位置にこだわりを持つ。それは、自分が反応した時に、両PRがいるべきところにいないといけないから。何のためにバインドをするのかも、すべて理解している」

 それに加え、簡潔な1対1での押し合いも強いとのこと。ぶつかり合いを「殴り合い」に見立て、相馬は説明を深める。

「理屈やタイミングでごまかしていたのは(現役時代の)私。相手が油断した時のパンチ力はあったのかもしれないけど、全力で殴り合ったら勝てない。ところが颯は全力で殴り合っても勝てるうえ、感覚的なものを理解している。そして、すでに言語化できる」

 江良は卒業後、リーグワンの強豪クラブでプレーする見込みだ。そこでは普段の練習や公式戦において、学生シーンで対峙できない世界クラスの戦士とスクラムが組めるだろう。相馬はさらに期待する。

「いい経験だと思います。理屈じゃどうにもならないパワーと戦うことは。でも、先手、先手、先手で攻め続ければ、勝つと思います」

 チームは加盟する関東大学対抗戦Aで、ここまで開幕4連勝中。江良は「やっているなかで自信というものが見えてきた。いままでしてきたことが形になって試合に出ている」と、地に足をつけて語る。

 2027年のワールドカップ・オーストラリア大会でプレーするのを目指すのはもちろんだが、まずは目の前のタスクに集中する。

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