ワールドカップ 2023.10.14

準々決勝の南アフリカ戦にSHデュポン主将先発。フランス代表指揮官、思い入れの深い相手との大一番へ意欲みなぎる

[ 福本美由紀 ]
準々決勝の南アフリカ戦にSHデュポン主将先発。フランス代表指揮官、思い入れの深い相手との大一番へ意欲みなぎる
10月13日、スタッド・ド・フランスの練習ではヘッドキャップも外していたデュポン主将。(撮影/松本かおり)



 フランスチームの準々決勝、南アフリカ戦のメンバーが発表された。WTBには4試合連続で20歳のルイ・ビエル=ビアレが選ばれた。

 今回の試合では、昨年11月に南アフリカと対戦した時と同様、FLもWTBもできるセク・マカルーをベンチに置き、FW6+BK2でフィニッシャー(リザーブ)を構成した。

「試合のシナリオに対応できるように異なるオプションを用意した。パワーだけではなくスピードを維持し、ヒットの強さだけではなく空中戦でも戦えるように考えてのこと。スターターの選手も複数のポジションをカバーできるので、我々の組織を変えることなく様々なオプションが可能」とファビアン・ガルチエ ヘッドコーチ(以下、HC)は今回のチーム編成を説明する。

 そして、会見会場でガルチエの隣にはアントワンヌ・デュポンがこの試合のキャプテンとして出席している。
 9月21日のナミビア戦で頬骨を骨折し、一時離脱していたデュポンが帰ってきた。

チームのオフィシャル『X』(旧Twitter)より

「いまは心身ともにいい状態。ケガをした時は怪我の度合いがわからず、自分のW杯は終わってしまったと思った。外科医の診察を経て手術を終えてから希望を持てた。W杯の期間は長い。大会の早い段階で負傷したのも僕にはラッキーだった。ケガをしてから2週間休むことができ、回復し、再び準備して感覚を取り戻し、今週は全体練習でコンタクトを含むゲームシチュエーションを実践することによって、自分のプレーや感覚を取り戻し、不安を取り除くことも、自信を取り戻すこともできた。今週末の試合に出場するにあたって、医師に決められたステップをひとつずつクリアしていくことが僕にとって大切なことだった」といつものように少し早口ではあるが、聡明に答える。

 今週の練習ではヘッドキャップを着用していた。
「外科医からとても強く勧められ、視野も遮られることもないので着けることにした」

「激しく強度を上げてくるチームを相手に戦うにあたって、どのようにメンタルの準備をしているのか? 痛みにはどのように対処すのか?」という記者の問いに対しては、こう答えた。

「このレベルのインテンシティーの試合には、肉体的にも精神的にも痛みはつきもの。強豪国との試合で、特に勝敗が明暗を分ける試合は身体的にとてもハード。でも目標に到達するためには苦しむ覚悟ができていなければならない。僕たちはとても高い目標を掲げている。そして、そのために何が必要かも分かっている。最初から最後までとてもタフな戦いになることも分かっている。でもその覚悟ができていないのなら、目標を到達する準備ができていないということ」と、揺るがない覚悟を見せる。

 デュポンの復帰までの過程についてガルチエHCも言葉を付け足した。

「メディカルスタッフと外科医の指示に従い、またアントワンヌ(デュポン)の意見を聞きながら落ち着いて対応した。時間があったので、急ぐことなくひとつずつ段階を進めていった。アントワンヌか言ったようにW杯は長い。だから33人で大会をスタートし、いまもまだ同じ33人全員がグループにいることができる。アントワンヌのように負傷しても回復して復帰することもできる。ジュリアン(マルシャン)も復帰しようとしている。W杯とは試合のない時間も含め、長い時間をかけて勝ち進んでいくものなのだ」

 また、ガルチエHCが南アフリカについて、「ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズにも勝利し、この4年間、世界チャンピオンのタイトルを高々と力強く掲げてきた、勝ち続けるチーム。またこのチームは我々に多くのインスピレーションを与えてくれた。彼らのビジョンや彼らのコミットメントに与えられた意義を理解しようと努めた。彼らは自分たちの国について、またその人々をひとつにすることについてよく語り、国のシンボルを背負っている」と言うように、フランス代表はスプリングボックスのドキュメンタリー映画『チェイシング・ザ・サン(Chaising the Sun)』をチーム全体で見たこともある。

 この試合に向けて南アフリカがメンバー編成を変えてきたことについては、「彼らの戦術的アプローチは鋭く、考え抜かれている。相手に合わせて非常に研究された戦略やゲームプランを用意してくる。試合のメンバー構成も然り。彼らはこの2週間試合をしていなかったから、我々のことをじっくり研究し、我々のことを知り尽くしているだろう」と話した。

「今回のメンバー編成にいくつかの変更があり独特なものになっているのも、戦術的、戦略的に考えられたもの。チェスのゲームのようだ。彼らは今朝メンバーを発表したが、我々も彼らがどういうメンバーを発表してくるか考えていた。試合の準備とはこういうことだ。お互いに戦略的思考を極限まで突き詰める。このチームのパフォーマンスがいいのは偶然ではなく、賢く、とても戦術的なチームだから。常に的確な読みで対戦相手に合わせて的確なプレーができる戦術を用意してくる。権謀術数の世界だ。嫌いではない」とレ・ブルーの策士は、ニコニコと、楽しそうに語った。

「個人的に私はこの国(南アフリカ)が好きだ。1995年に滞在し、この国から、この国のビジョン、カルチャーから多くのことを学んだ」と言う。
 ガルチエHCは1995年の南アフリカ大会のW杯スコッドから外れた時のことを、「落胆はしたが自分の運命に泣いているだけではいたくなかった。当時26歳。毎日が同じことの繰り返しになっていて新しい息吹を必要としていた。英語と人生を学ぶために旅立つことにした」と回想する。
 当時履修していたマスター課程の必須科目となっていた英語学習を目的として旅立った際、降り立った先は奇しくも南アフリカだった。

  決してフランス代表チームを意識してのことではない。
 当時ビアリッツでプレーしていたイングランド人の選手が、フランス語が話せるニック・マレット(元南アフリカ代表)がコーチをしているからと、偶然にも南アフリカのフォルスベイのクラブを勧めてくれたのだ。

 昼間は大学に通いながら、夜はラグビーの練習に参加していた。ウエスタン・プロバンスのコーチの目に留まりカリーカップを戦うことになる。ここでの経験がガルチエのラグビーを大きく変えたと言われている。
 しかもその後、W杯中にフランス代表SHの負傷のために急遽召集された。準決勝を、映画『インヴィクタス』のモデルとなったスプリングボックスと戦い、3位決定戦でイングランドを破った。彼にとっては思い入れの深い国だ。

「ワールドカップの準々決勝で、スタッド・ド・フランスで、このチームと対戦できることは本当に素晴らしいこと。ただし、私たちが目指すのは、これまで通り変わらず、喜びと大志と、このチャンレンジに勝ちたいという意欲を持ってチームでラグビーをすることだ」

メンバー発表記者会見での主将(左)とヘッドコーチ。(撮影/福本美由紀)

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