先輩、後輩、上司に感謝。江口晃平[静岡ブルーレヴズ/HO]
このチームで現役を終えたかった。だから、このタイミングで決断した。
静岡ブルーレヴズのHO、江口晃平は28歳でラグビー人生の幕を下ろした。
「ヤマハ時代から6年やらせてもらって、今季はHOが5人いました。もしかしたらラストかもしれない、と覚悟はしていました」
はじめは悔しさこそあったけれど、「最後の試合に向けて出し切ろうと思えた」という。
「チームからは現役を続けたければ、チームを探すサポートはすると言っていただきました。でも、自分はトライアウトで拾ってもらった立場でしたし、ヤマハという強いチームに関われている、プレーできていることが誇りでした。あとはなによりこのチームが好きで、ここで終えたい、と」
ラストゲームはリーグ戦最終節の前日、トヨタヴェルブリッツとの練習試合だった。
左PRにはけが人の影響で急遽、同じHOで後輩の山下憲太が入った。
「『なんでHOじゃなくて(専門外の)1番なんだ』と思ってもいいのに、一緒に頑張りましょうと言ってくれた。僕の最後のわがままに付き合ってくれました」
前半8分にはゴール前のスクラムを押し切り、先制トライを奪う。チームも43ー29で勝った。やり切った。
「自分の持ち味を出せましたし、レヴズらしさも出せたと思います」
競技人生のハイライトは、トップリーグ最終年となった2021シーズンだ。
初めて開幕戦(日野戦)でリザーブ入りすると、正HOの日野剛志が前半17分にアキレス腱断裂。急遽訪れた出番にもかかわらず、そのパフォーマンスは大黒柱を失った暗い雰囲気を払拭した。
セットプレーを安定させ、ピッチでは強みの走力を見せて2本のトライをアシスト。開幕白星に貢献した。
会見で堀川隆延監督は「僕の中でのMOMは江口」と言ってくれた。チームメイトからも称賛を受け、友人からたくさんの連絡が届いた。
「実はプレーシーズンの時点では4番手でした。平川(隼也)がシーズン前に、試合直前に名嘉さん(翔伍・今季までアシスタントコーチ)もケガした。日野さんが退場したとき、覚悟を決めました。僕以外、HOはいない。自分のできることを精一杯やろう、自分の役割に徹しようと。ようやくチームに貢献できて嬉しかったですね」
次節から4試合先発、リーグ戦は全試合に出場した。基盤を作ってくれた、田村義和コーチに感謝する。
「入った頃は特にスクラムがまったく歯が立ちませんでした。一番下だったので、練習で組めても10本あるうちの1本だけ。しかも押されて終わり、の繰り返しでした。そんな中でデンさんは練習後の自主練で、スクラムやスクラムに活かせるウエートを教えながら一緒にやってくれました」
幼少期はアメフト選手に憧れた。人気漫画『アイシールド21』にハマり、プレーを始めやすい高校からはこの競技を、と決めていた。それまでは同じ楕円球に触れようと、始めたのがラグビー。西陵中に入学すると同時に、ラグビー部に入った。
高校は地元の伏見工へ。アメフトへの思いはいつしか消えていた。
「京都から良い選手が集まると聞いていました」
その筆頭が松田力也だった。開幕まで100日を切った今度のW杯で活躍が期待される、ジャパンの司令塔だ。
「一緒にチームでやれたことは誇らしいです。当時からキャプテンシーもあって、スキルもずば抜けていました」
3年で花園を経験。立命館大では1年時から出場機会を得た。
それでも、4年間で一度もレギュラーを取れなかった。最終学年では副将を務めたが、シーズン終盤にポジションを奪われる。
順風満帆とはいかないなかで、「社会人でもラグビーを」の思いが芽生えたのは赤井大介コーチの影響が大きかった。三洋電機、近鉄で活躍した元トップリーガーを間近に見て、「社会人はこんなに楽しそうにラグビーをやっているのかと感じました」。トライアウトでそのチャンスを掴んでみせた。
ヤマハには立命館の先輩がたくさんいた。仲谷聖史さん(現早大コーチ)、池町信哉さん(レフリー)、大戸裕矢、西村颯平…。後輩に庄司拓馬、畠澤諭もいる。居心地が良かった。
「颯平くんとは高校、大学、社会人とずっと一緒です。プライベートでも、ラグビーでもお世話になりました」
グラウンド外では上司の一言に救われた。社業では、船のエンジン(船外機)を開発する段階での原価管理などを担う。上司の大石さんは親身に接してくれた。
「入社したときはラグビーだけをやっていればいいと思っていました。でも大石さんはセカンドキャリアも考えて、できる範囲で仕事も頑張りなさいと。その言葉で切り替えられたので、社業だけになったいま、大きな苦労なくできていると思います」
先輩の新谷さんは、いまの業務を叩き込んでくれた「師匠」だ。江口のプレー写真がプリントされた手製のTシャツやトートバッグを身につけて、応援に駆けつけてくれた。
「人に恵まれました」
趣味のキャンプはこれから頻繁に行けそうだ。おすすめは磐田駅からも近い「竜洋海洋公園オートキャンプ場」。掛川なら「ならここの里キャンプ場」。川遊びもできて、温泉にも浸かれる。
「舟橋(諒将)、(桑野)詠真、河田(和大)とよく行きます。先週も行ってきました」
仲間とのつながりは、これからも続く。