国内 2026.11.06

【連載】プロクラブのすすめ㉟ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] プロスポーツチームにふさわしい人事制度を整えます。

[ 明石尚之 ]
【連載】プロクラブのすすめ㉟ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] プロスポーツチームにふさわしい人事制度を整えます。
(撮影:舛元清香)

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。

 35回目となる今回は、プロスポーツクラブならではの人事制度について語ってもらった(10月29日)。

◆過去の連載記事はこちら

――2026-27シーズンの開幕まで1か月半ほどです。

 現在チームは延岡でキャンプをしていて(10月23日から11月3日)、かなりハードな練習をしていました。
 私も短期間ですが帯同し、自治体の方へのご挨拶や延岡で講演会をおこないました。

 事業スタッフは開幕に向けて粛々と準備を進めています。スポンサー営業は終盤に差し掛かりました。

――スポンサー営業について、今季の調子はいかがでしょう。

 新規のスポンサーが増えているので、売り上げは昨季以上になる見込みです。
 ただ今季は残念ながら、過去数シーズン契約を継続してくれていた企業が契約を終えるケースが出てしまいました。

 契約には会社の事情や契約が終わるタイミングなど、さまざまな理由があるのでネガティブには捉えてはいませんが、リーグワンが開幕した頃と比べるとラグビーの見方が変わってきていると感じています。

 これからラグビーが盛り上がると思って(ブルーレヴズを)応援していたけど、他の競技や他の宣伝広告やプロモーションと比べると物足りないと、実際に言われたこともあります。
 もちろん、そのせいにするつもりはありません。ブルーレヴズが強いチームになり、集客力がさらに上がれば広告価値は上がっていくので。

 一方でラグビー界全体の魅力が薄まったり、リーグワンが当初期待していたものほどではないと感じられてしまうことは正直あると思います。
 バスケットボールのBリーグプレミアや、バレーボールのSVリーグを見ていると、新しく生まれ変わるんだな、盛り上がっているなというのがメディアへの露出も含めてすごく伝わってきますから。

――それは事業スタッフの方々も感じ取っている。

 5シーズンも過ごすと、どうしてもマンネリ感と言いますか、良くも悪くもルーティーンのようになっていく。
 その中でも、ブルーレヴズは新しい価値を発揮する、誰もやったことがないことにチャレンジするメンタリティーで取り組もうと話しています。

 そうしたことも踏まえて、来年から人事制度を大きく変える予定です。
 僕はこれまで約20年ほどスポーツチームの経営者をやってきましたが、プロスポーツチームにふさわしい人事制度を作りたいとずっと思っていました。

 なかなか踏み込めずにいた領域でしたが、現在親会社(ヤマハ発動機)の人事制度を採用しているブルーレヴズでは特にふさわしいものを作るべきだなと。
 われわれのようなサービス業とモノを作るメーカーとでは、社員に求めることや評価すべきものは変わりますから。

――具体的にどのような変更をするのでしょう。

 モノ作りの場合は仕事の成果が時間と比例するので、どれだけ働いたかで評価されることが多いです。

 一方で、われわれは時間をかければ仕事の成果やパフォーマンスが上がるわけではありません。時間と関係なく成果をいかに出すか、いかに期待に応えるかということが評価のポイントなります。
 もちろん、イベント運営のように時間が拘束される仕事もありますが、多くの時間働かなければ給料が増えないというのはちょっと違うかなと。

 プロスポーツビジネスはチームの強さも売り上げに当然関係しますが、強さに関係なく商品の価値を生み出す必要があります。形のない商品やアイデアは、事業スタッフの思考や行動からしかアウトプットされません。
 チケットをどう売るのか、どんなイベントを企画するのか、スポンサーへの企画書をどう作ってどうプレゼンするのか、すべて機械ではなく人がやらないといけないんです。もちろんAIでできることもありますが、そのAIをどう使いこなすのかを考えるのも人の仕事です。

 働いた時間で評価するのではなく、スタッフのそうしたパフォーマンスを評価する人事制度にしなければいけないと思っています。
 みなし残業を支給しながら一定の時間を自分の持ち時間として、その中で成果を出し、価値のある仕事をしてくださいということです。要するに、一定の時間内であれば給料は変わらないので、仕事を早く終わらせて成果を生み出したほうが得をするという考え方ですね。

――どのように評価するのでしょう。

 例えば上司がAからDの段階評価や点数をつけて評価することが一般的だと思いますが、新しい人事制度ではいわゆるノーレイティングを導入する予定です。

 まずは自分で自分を評価してください、と。そしてこのような期待に対してこのぐらいの成果や価値のある仕事をしたということを上司が評価し、それぞれの評価に対してしっかりと話し合って最終的な評価を決めていく。選手の年俸交渉のような形です。

 点数化しないので、コミュニケーションの量はすごく必要になります。互いに擦り合わせながら都度、説明をし、納得するまで話すことが必要です。

 あなたにはこういう役割やこういう成果を求めています、と。数字では測れない業務も含めて、期待することを事前にちゃんと決めておくことが大事です。

――話は変わりますが、クワッガ・スミス選手の退団が決まりました。

 契約事なので詳細をお伝えすることはできませんが、長期離脱を要するケガをしたこともあり、本人のこれからのキャリアとチームの編成を踏まえた上で本人としっかり話し合って決まりました。

 ただ、8シーズンに渡ってブルーレヴズに尽くしてくれた選手ですし、「ブルーレヴズと言えばクワッガ」と言えるくらいクラブを代表する選手でもあったので、辛い感情、寂しい気持ちもあります。

 リハビリの合間を縫って先日日本に戻って来てくれて、選手たちに心強いメッセージもくれました。

*11月1日にオーストラリア代表FBジョック・キャンベルの加入を発表

――また話は変わりますが、社会人アメリカンフットボールリーグ「Xリーグ」で問題が起きました。プロ契約選手の保有を上限4名までとする規定を違反しているのではないか、という疑惑を持たれたチームが出たと。

 僕もXリーグの外部理事なので、理事会で議論の内容は聞いています。

 スポーツは戦力が均衡していないと面白くなくなる特性があります。特に得点が多く入る競技はその傾向が強いです。
 なので、選手獲得や編成をする上でドラフト制度やサラリーキャップといった一定のルールを作るわけです。

 ただルールを作ると、その分、パトロールと言いますか、監視や調査をするコストがかかります。不正がないかをチェックしたり、不正が生じた場合に対応する人員や時間や労力です。

 Xリーグはよりリーグを面白くしようと戦力を均衡化するルールを作ったけど、そのルールを管理したり、対応するマンパワーが足りていませんでした。

――リーグワンでもカテゴリ問題など、ルール作りは難航しがちですね。

 Bリーグも今季からサラリーキャップを導入していますが、違反すればプレミアから即降格と明言している。もちろんチェックにコストをかけているとは思いますが、これはかなりの抑止力になるなと。より面白いリーグになると感じます。

 リーグワンもリーグの価値をもっと高めるためにも、しっかりと制度を作っていくべきだと思います。

 佐藤健人選手(FB)が今季、神奈川タマリバクラブ(東日本トップクラブリーグ所属)から加わってくれましたが、4月にタマリバで選手登録をしたために今季のリーグワンには出場できないんです。当該シーズンに一度選手登録をしたらカテゴリーが違えど他のチームに登録変更ができないという、他のスポーツではとっくに見直されているルールがまだラグビー界には残っている。

 これは昔の企業スポーツ時代のルールです。社員選手がシーズン途中に移籍するのはよろしくない、ということを前提に作られたもの。選手の流動性が低い時代、引き抜きは悪という時代のルールですね。

 選手寿命は限られています。このような機会を損失するようなルールがいつまでも残っているのはいかがなものかと。早期の変更を何年も前からリーグの会議で求めて続けていますが、一向に議論の優先順位が上がりません。



PROFILE
やまや・たかし。1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

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