コラム 2026.04.02

【コラム】学生スポーツの意義②

[ 渡邊 隆 ]
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【コラム】学生スポーツの意義②
大西監督と筆者。全早稲田英仏遠征 ケンブリッジ大クラブハウスにて 

 混迷を極める現代において、私たちはこの戦争の時代に何を考え、どう生きるべきか。昨年このコラムに書いた同題のテーマを、元ラグビー日本代表監督の大西鐡之祐先生が残された2つの論文から、現代の学生スポーツの在り方を考えてみたい。

「『楽しみは努力の中にある』。これこそ『ラグビーをする心』の第一歩である。努力する楽しみを知らない学生たちに、どんなに良いコーチが良い技術を教えたとしても、それは付け焼刃であって本物ではない。本能的にやっていた技術は必ず行き詰まる。彼らは何とかしてそれを打開しようと探求する。この時期こそ、ラグビー理論の注入の時である。

 ラグビーが一定の空間、ルール、人員を素材として組み立てられたゲームである限り、理論的構成が可能である。その教育的価値の一つはそこにあると考えられる。理論の探求と練習の繰り返しによって、彼らは本物の技術を創り上げていく。技術の他に戦法、チームワークおよび練習法においてさえ、理論のあることを注入すれば、彼らの目は、今まで単に勝敗を争うラグビーから、理論の実践としてのラグビーに開かれてゆくであろう。

 そして、そうした理論的技術、戦法、チームワークが自分たちの手で創り上げられた時、彼らのプレーは自信にあふれ、嬉々として躍動する。その時、初めて本能的プレーは、知性的プレーへと変化し、ラグビーの中に知性はあふれる。

 知性とは単なる知識の記憶累積ではなく、練習で経験してきた本物のプレーを、自分の意思で目標達成のために再組織する働きである。ということを認識し、知性的スポーツマンとしての誇りを自覚するに至るのである」

「元来スポーツは、真剣に対峙する相手がいてはじめて成立する。対峙する双方が全身全霊を打ち込んで、スポーツ行動の厳粛性が存立する。

 しかし、それは野獣の闘争ではなく、人間の理性的統制による闘争であるところに大きな教育的な価値がある。この闘争の間に起こる人間の二律背反性(勝ちたい思いとフェアでなければならない思い)を克服する過程こそ、スポーツの教育的価値の最高のものであろう。

 ラグビーの野性的で自由なプレーの中に、最も洗練された人間味あふれる態度が養われていくのは、まさにその闘争の間における理性的自己統制の修練のためなのである。

 闘争の倫理の発見である。

 知識上我々は、闘争の倫理について種々教えられてきた。しかし果たして、闘争行動の制御はできたであろうか。また闘争行動のやり方を訓練する場を教育の中においたであろうか。

 スポーツこそ、現代における人間の闘争行動の方法を教育する唯一のものであるし、スポーツの価値とは、と問われたら、「闘争の倫理の体現」と答えるであろう。ラグビーをする心もまたここにある。

 人間が闘争、緊急、死などに直面した時、科学は、個人の意志や感情はもちろんのこと、思考や判断さえもうまくコントロールする力とはなり得ない。スポーツや特にラグビーのゲームの状態は、まさにこうした事態に直面しているのであって、その時点における行動の決定は、プレイヤー自身にある。

 人類がいま、科学と闘争のコントロールに全力を傾注しなければならない時、スポーツを通じての教育もまた、科学的研究のみならず、闘争の倫理の確立のための自律的教育に挺身されなければならないであろう」

 終戦後、戦地から戻られた大西先生が、日本の復興を担う大学教育とラグビーに人生のすべてを捧げた半世紀。スポーツを人間の哲学にまで高め、昇華した過程である。

 そして40年も前に、人間社会の行く末を予想して警鐘をならしていた。

 世界中で何の罪もない子供たちが命を奪われ、多くの善良な市民が突然住む家を破壊され、暖房もない瓦礫の中で、今も寒さに震えながら、途方に暮れている。

 我々が生きる現代の人間社会は、子供たちに何を教え、どんな世界を創り上げようとしてきただろうか。

 この科学技術の発展は、これからもどんな超高速を競い、走り続け、どんな未来を目指し突き進んで行くのだろうか。便利さとスピードの追求で人は、世界は幸せになれただろうか。

 地球の未来を担う若き学生を育成するスポーツの意義は、どんな人間を育てることにあるのだろうか。やがて社会に出て、どんな役割、貢献を果たせるのだろうか。

 闘争の倫理、自己犠牲、フェアプレーの精神、チームワークの尊さなど、人間社会にとって最も高度な域に属するこれらのスピリットは、机上の学問だけでは教えられない領域にある。

 特にラグビーなどの危険を孕むスポーツの疑似闘争には、あの場でしか学べない、現代の人間社会にとって最も大切なエッセンスが潜んでいるはずだ。

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