国内 2026.02.19

「引退危機」の末に大台達成。眞壁照男、愛着あるブレイブルーパスで描く未来。

[ 向 風見也 ]
「引退危機」の末に大台達成。眞壁照男、愛着あるブレイブルーパスで描く未来。
クリーンアウトに入る眞壁照男[BL東京/PR](撮影:福島宏治)

 己のスクラムで逆転勝利を掴めるところだった。

 2月15日、東京・秩父宮ラグビー場。国内リーグワン1部の第8節で、東芝ブレイブルーパス東京の眞壁照男がピッチに入ったのは後半22分である。

 対するコベルコ神戸スティーラーズには一時20点差をつけられていたが、17番をつけて登場する頃には21-27と追い上げムードにあった。両端をいっぱいに使った攻めを機能させ、形勢逆転に成功していた。

 最前列の左PRを担う眞壁は、攻防の起点で追い風を作りたかった。スクラムに賭けた。

 大型化の進む楕円球界において、身長172センチ、体重110キロというサイズで低い姿勢でプッシュできるのが強みだ。

 今回はキックオフからタッチライン際で戦況を見つめたり、自身のポジションで先発した木村星南の言葉を聞いたりするうち、スティーラーズは組み合う瞬間にプレッシャーをかけているのがわかった。本格的に押し合う折には右PRの具智元に「いい位置に入られ」てしまっていて、後手を踏んでいた。

 一方、そのせめぎ合いで「引かない」のを意識すれば、自分たちが首尾よく押せると想像できた。

 レフリーの合図より前に敵へ重圧をかけるのは反則だが、担当の滑川剛人氏の基準ではよほどのフライングでない限りは咎められないであろうとわかっていた。

 やるべきことは明確だった。

 25分、敵陣22メートル線付近左中間に立った。

 スティーラーズのFWにイエローカードが出て、ブレイブルーパスが数的優位を持ったなかで自軍ボールのスクラムを得た。隣の仲間とともに、向かって右側からあおってくるような相手の押し込みをいなし、味方にボールを出した。
 
 外側、内側と順にボールを継続し、27分に勝ち越した。28-27。

 最後は33-34で2連敗を喫したが、爪痕は残せた。本人はこうだ。

「(スクラムでは)ハーフタイムにチームとしてどう組むかを話していて、その通りにいけました。(ヒットの瞬間に)『行きすぎずに、イーブンくらいでキープできるように』と」

 記念の一日を過ごしたばかりだ。先の第7節でリーグワン通算50キャップを達成した。しみじみと応じる。

「東芝に入った頃は無名でした。でも、ここで学んで、ハードワークした結果が50キャップという数字になりました。有名な大学の後輩が早く50キャップを獲るなか、僕みたいな選手がそうなって…」

 神奈川の桐蔭学園を経て、立教大に進んだ。加盟する関東大学対抗戦では、上位陣に牙をむく立場だった。高校の先輩でもある望月雄太採用を介してブレイブルーパスの体験練習に参加したら、周囲のスタンダードの高さを痛感した。ましてや、そのブレイブルーパスも責任企業の経営不振が報じられて先行きが不透明に映った。

 2019年に晴れて入部した当初から、保証のない立場に置かれていると認識していた。

「東芝自体も厳しい状態でしたし、単純に、(自身が)スクラムでレベルに達していなかった。次にもいい選手が入ってくるとわかっていましたし、3年、試合に出られなかったら、引退と危機感を持っていました」

 諦めることはしなかった。何より、諦めなかったことで周りが手を差し伸べてくれた。2020年に急逝したコーチの湯原祐希には、元日本代表HOという経験に基づく緻密なレビューをしてもらった。両軍が8対8で作る塊がなぜ安定したり、崩れたりするのかを詳細に教わった。

 自身と同じ左PRには、湯原とワールドカップを戦った三上正貴がいた。37歳の今も現役でプレーする三上に、眞壁はトレーニングに誘ってもらった時期がある。

 ‘23年度に先立つオフシーズン。社員選手のため社業に専念するタイミングだったが、府中市内の勤務先敷地内にあるグラウンド、ジムでの自主練習にも注力した。

「(前日に)三上さんから『あした、行くよ』と連絡が来て、出社前にトレーニングを。会社でも『終わってからこのメニューを』と。自分からも『今日は何をやります?』と聞くこともありました。その後のシーズンインでした(体力面の)テストもいい数値で…」

 果たして飛躍的に出番を増やし、以後はチームの2連覇に喜んだ。

 競争社会で生き残る手応えを感じたと同時に、クラブのカルチャーを再確認できただろう。三上のような定位置を争う年長者が惜しみなく助け舟を出してくるのが、ブレイブルーパスという組織だった。

「代々、そうしてきています。フロントロー(PR、HO)で誰かがうまくいっていなかったら『じゃあ、3(対)3、組もうか』と。これが試合中の修正能力にも(繋がる)」

 苦労しながら大台に辿り着いた29歳は、それぞれ似て非なるものとされる左右のPRの両方ができるのも特徴だ。好きなグループの有事に備えられる。
 
 これからの目標は「大きく言えば、小さい頃からの夢の日本代表。あとは、このチームで優勝したい。1試合、1試合を重ねての3連覇と、その先の代表、です」。迷いなく断言した。

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