コラム 2025.12.22

【ラグリパWest】意気高し。坂出第一高校ラグビー部

[ 鎮 勝也 ]
【キーワード】
【ラグリパWest】意気高し。坂出第一高校ラグビー部
12月27日に開幕する105回全国高校ラグビー大会に出場する坂出第一のラグビー部員たち。開会式直後の開幕戦で東海大仰星と対戦するが、鍛え上げたチーム力をもって全力でのぞむ。後列右端が宮田貴司監督だ

 日が西に傾く。満天がオレンジ色に染まり、群青に変わってゆく。午後4時台の日没を過ぎると漆黒の闇が訪れる。

 そのラグビー練習の光源は車2台のヘッドライトのみ。照明塔はない。緑の人工芝の上で坂出第一の高校生たちは、監督の宮田貴司の課したメニューを平然とこなしてゆく。

 この私立校は12月27日に開幕する105回全国大会に香川県代表として出場する。暗闇での練習は15メートルに幅を切った5対5からモールに移ってゆく。それらはフルコンタクト。攻守とも全力でぶち当たる。

 その練習メニューを井上湧心(ゆうしん)は評する。長い両目の端が下に落ちる。
「アドレナリンが出て楽しいです」
 井上は175センチ、95キロのLO。NO8の野坂零十郎と共同主将についている。

 井上は数学教員でもある宮田が好きだ。
「先生は自分の知らない長所を言ってくれます。僕は人に合わせるところがあると思っていたのですが、優しい、と言ってくれました」
 そこには信頼関係ができ上がっている。

 その井上を含め部員数は23。選手は20人。このフルコンタクトの練習でケガ人が出れば、たちどころにメンバー繰りに窮する。現に103回大会ではこの県の代表だった高松北が負傷者のため、2回戦を棄権している。

 宮田はそんなことは気にもとめない。
「当てずに無様な試合をするのなら、当てて準備をするだけです」
 腹が据わっている。ケガ人が出たら、出た時のこと。やらなければ勝てない。両目は下がり気味だが、戦時には細く、鋭くなる。

 その勇気は国防の任についた前歴と無関係ではない。宮田は岡山理科大を卒業したあと、4年間、陸上自衛隊にいた。入隊は一般曹候補生。下士官を養成するコースだ。広島の海田市(かいたいち)の駐屯地にいた。

 大学では数学を専攻。教員が目標だった。
「その前に社会経験を積もうと思いました」
 自衛隊の採用担当が毎朝、下宿先にやって来た。熱意に負けた形になる。

 その陸上自衛隊で培った<負けじ魂>と教育の融合に人は惹かれるのだろう。チームアドバイザーは「ゴリ」こと野澤武史である。
「今年の夏にも二泊三日で来てもらいました。経験が豊富で発想も我々とは違います」
 宮田には感謝がある。

 野澤はFLとして日本代表キャップ4を持つ。慶應や神戸製鋼(現・神戸S)でプレーした。コーチや解説者としても名が通る。宮田はラグビーの研修で知り合った。

 宮田は来月1月で48歳になる。この坂出第一で16年目に入った。赴任と同時にラグビー部監督に就任する。年末年始の全国大会出場は6回。今回は2大会連続になる。未勝利だが、宮田はすべてに携わっている。

 初出場は93回大会(2013年度)。1回戦で明和県央に0-113。スコアは大敗だが、赴任した3大会前は県予選で高松北に0-120。出発点から考えれば、進歩は疑うべくもない。

 その高松北は宮田の母校であり、当時の監督は髙木智(さとし)。大体大OBで現役時代はFLだった。宮田は高校入学後、競技を始めた。中学では野球をやった。
「何か新しいことをやりたかったのです」
 全国大会出場は2回。CTBだった。

 高松北を出たあと、岡山理科大、陸上自衛隊を経て、日本航空第二に赴任する。
「大学の先輩から、数学の教員を探している、と連絡がありました」
 学校は創立2年目だった。今、その校名は日本航空石川に変わっている。

 ラグビー経験者ということでコーチについた。当時、監督だった小林学を補佐する。この高校では6年を過ごした。5回、全国大会に出た。そして、故郷に戻る。
「香川で育ったお返しがしたいと思いました」
 恩師の髙木と宮西一樹が誘いに来た。宮西は坂出第一の職員で今はラグビー部部長だ。

 坂出第一は県の中央部、坂出市にある。鉄道と高速道路から成る瀬戸大橋が通り、四国と本州を結ぶ玄関口になる。人口は47000ほど。古くは塩田で知られたが、今は石油や化学、重工業などの工場が並ぶ。

 学校の創立は1907年(明治40)。坂出和洋裁縫女学校として始まった。1974年(昭和49)、現校名になり、翌年、共学化。地元では「さかいち」と呼ばれる。普通と食物の2科制。食物科は在学中に調理師免許を得られ、人気する。全校生徒は430人ほどだ。

 ラグビー部の創部は1976年。今は6つの強化指定部のひとつになり、特待生制度も持つ。20人の選手中6人が県外生で、私設の寮から通学している。宮田は話す。
「食物科の子らが弁当を作ってくれます」
 月15回ほどは栄養豊富な夕食が出る。

 車のヘッドライトで練習する人工芝グラウンドは、市の管理で平日の使用は週1回。校内グラウンドには照明こそあるが、土でラグビー場のゴールラインから22メートルまでの面積ほどしかない。女子校の名残だ。ここをサッカーと陸上で分け合って使っている。

 そのため、休日は出げいこにゆく。徳島科学技術や土佐塾などと仲がいい。
「徳島なら片道1時間30分くらい、高知なら2時間かかりません」
 移動は学校所有のマイクロバスを使う。

 その出げいこの成果もあって、105回大会の県予選決勝は26-22で高松北を振り切った。本大会の抽選は12月6日にあった。1回戦の相手は東海大仰星に決まった。優勝6回、歴代4位の記録を持つ強豪だ。

 その東海大仰星との一戦を宮田はある出場校の監督に形容したという。
「シード漏れ同士の対戦」
 そうこなくっちゃ。勝負事は勝つことのみを考える。それでいい。

 試合日時は12月27日の正午になった。開会式直後でグラウンドはメインの第一。この濃緑と黒のジャージーに注目が集まることは必至だ。舞台は整った。あとはやるだけだ。

PICK UP