海外 2025.12.17

トゥールーズに勝ち点4剥奪と4万5千ユーロの罰金。「ジャミネ問題」が投げかける深刻な波紋

[ 福本美由紀 ]
トゥールーズに勝ち点4剥奪と4万5千ユーロの罰金。「ジャミネ問題」が投げかける深刻な波紋
渦中の人となったメルヴィン・ジャミネ。現在はトゥーロンでプレーしている(Photo/Getty Images)

 12月15日、フランス協会の責任下に置かれた独立機関であるフランスラグビー懲戒評議会は、スタッド・トゥルーザンに対し、現行のシーズンの勝ち点4ポイント(うち2ポイントは執行猶予付き)の剥奪と、45,000ユーロ(約819万円、うち15,000ユーロは執行猶予付き)の罰金という処分を発表した。

 フランスラグビー界を牽引しているトゥールーズを巡る一連の財務不正疑惑、通称「ジャミネ問題」は、単なる会計処理の問題に留まらず、不正な資金流用の疑惑、そして刑事捜査へと発展し、クラブのイメージにも深刻な波紋を投げかけている。

 問題の核心は、2022年のFBメルヴィン・ジャミネのペルピニャンからの獲得時に遡る。クラブは、契約解除条項の支払い(約45万ユーロ)を、LNR(フランスプロリーグ運営団体)が定めるサラリーキャップの予算外で処理しようと画策した。

 この不正スキームは、当時クラブの顧問弁護士でもあったアルノー・デュボワ氏の助言のもと実行された。トゥールーズはタヒチの商業登記簿に登録されているパシフィック・ハート社に対し、「2023年ラグビーワールドカップ期間中のフィジー遠征ツアーの企画」という名目で約50万ユーロを支払った。

 しかし、この遠征企画は実現せず、パシフィック・ハート社への支払いの時期と金額が、ジャミネが個人ローンを組んでペルピニャンへ支払った契約解除金の時期と重なっていることから、パシフィック・ハート社との契約は、ジャミネ選手が契約解除のために借り入れた資金をトゥールーズが補償するための「目的を逸脱した資金供与」であり、法的・財務的な偽装であったと容疑がかかりLNRが調査に乗り出した。

 加えて、パシフィック・ハート社に支払われた50万ユーロがジャミネの手には渡らず、行方不明となる事態が発生した。ジャミネは多額のローンを抱えることになり、2024年夏のフランス代表の南米ツアーの折に、泥酔してSNSで自身がレイシスト発言をしている動画を投稿したことに対して、所属クラブのトゥーロンが減給処分を検討した時に、ジャミネの置かれていた状況が判明したところからメディアが知るところとなったのだった(その後、ジャミネにトゥールーズから支払いは行われた)。

 この事態を受け、トゥールーズは、事実の一部を認め、2025年3月にリーグと調停に入り、130万ユーロ(約2億3670万円)を支払うことで和解が成立した。クラブ幹部は、これで問題が終結したと認識していたとされる。

 しかし、調停による和解から約半年後の2025年11月、事態は再び急展開を迎えた。LNR傘下のラグビー規制当局およびプロ選手権管理委員会が、このジャミネ問題に関して、クラブの「誤った、および/または不正な会計処理」を理由に二度目の懲戒手続きを開始することを決定したのである。

 これに対し、トゥールーズの弁護団は、「同一の事実に対して二度有罪とされることはない」という一事不再理の原則に違反し、調停合意が新たな訴追のリスクを消滅させるというリーグ規則にも抵触するとして、手続きの不当性を強く主張した。一方、リーグ側は、プロ選手権管理委員会がサラリーキャップ手続きとは別の独立した機関であり、今回の争点はサラリーキャップ超過ではなく「会計の誠実性」であるとして手続きを強行した。

 プロ選手権管理委員会の調査の結果、デュボワ氏とパシフィック・ハート社の関与はトゥールーズに留まらず、同時期に同様の不正な資金流用スキームを用いていたプロD2所属のビアリッツとベジエの2クラブにも及んでいることが判明した。

 12月8日、フランスラグビー懲戒評議会の規制委員会において、トゥールーズ、ビアリッツ、ベジエの3クラブに対する聴聞会が同時に開かれた。

 12月15日、評議会は、トゥールーズに対して以下の処分を発表した。
・「不正な会計処理、および/または目的を逸脱した資金供与」に対して、10,000ユーロの罰金と現行シーズン(トップ14)順位から確定2ポイントの剥奪と執行猶予付き2ポイントの剥奪
・「資金の流れ、前払費用、および付属文書への記載なしを理由とする誤った会計処理」に対して、20,000ユーロの罰金
・「ジャミネに保証された肖像権料の不申告」に対し、執行猶予付き10,000ユーロの罰金
・「パシフィック・ハート社およびアルノー・デュボワ氏への調査への協力不足」に対し、執行猶予付き5,000ユーロの罰金

 最大140,000ユーロの罰金、LNRからのテレビ放映権料等の支払いの凍結、選手報酬水準の制限、新加入選手獲得の禁止、リーグ戦順位からの最大10ポイントの剥奪、決勝トーナメントの参加資格剥奪、または下位ディビジョンへの降格などの重い処分も懸念されていた中、寛大な処分となり、関係者は胸を撫で下ろしていることだろう。

 減刑の理由として、評議会は、クラブの著しくプラスの自己資本を考慮し、不正な資金が許可されたサラリーキャップ総枠を超過する事態には至らなかったこと、クラブが事実の一部を認め、既に調停で金銭的拠出を行ったことを考慮したとされている。

 トゥールーズは、この決定の通知から7日間の期間内に懲戒評議会の制裁に対して控訴する権利を有し、「言い渡された決定は、その手続きの進め方がクラブのイメージに甚大な影響を与えたものであり、私たちは遺憾に思う。透明性と責任という価値を重んじるスタッド・トゥルーザンは、今後数日のうちに、顧問弁護士とともに、権利を守るための控訴を行う機会があるかを分析する」と発表している。

 LNRによる処分とは別に、スタッド・トゥルーザンからパシフィック・ハート社に支払われた50万ユーロという金額が行方不明になっていることから、トゥールーズ検察庁によって「背任行為」 の予備捜査が4月に開始されている。検察は、ジャミネ移籍の不透明な条件は「少なくとも正当な疑念を抱かせる」と言及している。この捜査は、広域国家警察局の組織犯罪・専門犯罪部門の金融対策班に委託されている。

 なお、ベジエには、現行シーズン(プロD2)のリーグ戦順位からの確定2ポイントの剥奪、および執行猶予付き2ポイントの剥奪と20,000ユーロの罰金(うち5,000ユーロは執行猶予付き)。ビアリッツには、現行シーズン(プロD2)のリーグ戦順位からの確定2ポイントの剥奪、および執行猶予付き2ポイントの剥奪と10,000ユーロの罰金の処分が下された。

 一連の不正スキームに関与したとされているアルノー・デュポワ氏は、2012年から2018年にベジエの財務管理責任者を務め、2024年夏にはビアリッツの執行役員会会長に就任したが、2025年5月にビアリッツの行政処分による降格の数日前に辞任している。

 また、彼はベジエの元会長らと共に、コスタリカの民間企業から「詐欺」や「偽造幇助」の容疑で訴えられたこともある。現時点では、どのメディアもデュボア氏のコメントを得ることに成功していない。

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