日本代表へも「戻りたい」。怪我から復帰の松田力也がヴェルブリッツを勝たせるには。
久しぶりにラグビーをしている。
「シンプルにグラウンドに戻って来られて嬉しく思います。徐々に、ゲーム勘が戻ってきています」
ラグビー日本代表として2度のワールドカップに出場した松田力也がこう微笑んだのは11月21日。千葉県内のグラウンドで、所属するトヨタヴェルブリッツの練習試合にSOとして先発した。NECグリーンロケッツ東葛を63-14と下したこの日は約60分のプレー。12月13日の開幕節を見据え、徐々に復調していた。
「少し、離れていたので、しんどさはありますね。(前半の)40分、長いなと。でも、後半は一気に進んだような。慣れ(の問題)かなと」
昨季は埼玉パナソニックワイルドナイツから移籍も、第9節で股関節を脱臼骨折した。
「なかなかラグビーではないらしく、交通事故でしか起きない(症例)と言われました。怪我をしてそのまま入院し、50日間(試合会場の近くだった)大阪にステイ。寝たきりの状態で、動けなかったですね」
自身が加わることで上昇させるつもりだったチームはその後、黒星を重ね、12チーム中10位でシーズンを終えた。松田は「しんどかった。チームに迷惑をかけていると、はがゆい、もどかしい気持ちがありました」。ただ、ふさぎ込むばかりではなかったとも語る。
ワイルドナイツ時代にも長期離脱を味わっている31歳は「なった(負傷した)ことは、しょうがない」。信頼する佐藤義人トレーナーらの支えでカムバックするまでの思いを、こう言葉にした。
「(怪我をした)瞬間から…というわけではないですが、入院していた段階からどうやって復帰することができるかを考えてきました。自分と向き合える時間でした。ポジティブではないですが『なかなか得られない時間だ』とプラスに捉えていくしかないと常に思っていました。もう、(同じ思いは)したくないですけど」
競技復帰したからには、「まずは、このチームを勝たせる」。各国代表の好選手、ニュージーランド代表のヘッドコーチ経験者2人を首脳陣に据えながらも低迷していたチームにあって、何が必要なのか。
本質的な対話だと松田は答える。
「いい選手、コーチがいて、いいプランがある。ただ、どうしても個人個人でバラバラになることがある。そこをどうまとめ、同じ絵を見せてラグビーをさせるかが鍵になります。(その実現には)練習でも、ミーティングでも、自分が思っていることをディスカッションして、すり合わせる。『この状況であれば、この考えのもと、ここに来て欲しい』は、すごく言うようにしている。外国人選手にも妥協せず自分からコミュニケーションを取っていくことが大事です」
前所属先の一枚岩の防御と鮮やかな攻守逆転について触れながら、こう続けた。
「状況に応じてどうするかを瞬時に判断し、皆で繋がる。それがラグビーの難しいところで、楽しいところでもあります」
グリーンロケッツ戦では、自陣の深い位置からでもラン、パスでフェーズを重ねることが多かった。大型FWを擁する戦力構成上もっとキックを使ってもよさそうだったが、あえて松田はそうしなかった。本番で笑うための布石を打っていた。
「ゲーム(公式戦)だったらもっと早く蹴ると思いますが、練習試合なのでもうちょっと我慢して様子を見ようと。僕のフィーリングでは、蹴ることはいつでもできる」
代表復帰も諦めない。いまのナショナルチームのスコッドが大幅に若返るなか、宣言する。
「あそこに、戻りたいと思っています。苦しい状況だとは思いますが、いつ戻ってもいいパフォーマンスができるように準備したいです」
約9年ぶりに復帰して2季目のエディー・ジョーンズヘッドコーチの体制には、ヴェルブリッツへ腰を据える前の24年の夏頃に参加している。最近では7月12日のウェールズ代表戦があった兵庫・ノエビアスタジアム神戸で握手を交わした程度だが、12月からのパフォーマンスを通して再び挙手するつもりだ。



