【ラグリパWest】ラグビーをつなぐ。洛星高校
洛星は私立の完全中高一貫校だ。
読みは「らくせい」。京都の市内にある。紅葉が散りきった比叡の山を東に臨む。校舎の上には大きな白い十字架が輝く。
聖ヴィアトール修道会が1952年(昭和27)に中学、3年後に高校を作った。修道会はカトリック。拠点をフランスに置いている。
この男子の一貫校は進学で名を馳せる。2025年度、地元の京大に31人、京都府立医大に10人の合格者を出した。
その高校にはラグビー部が存続する。部員と顧問がひとりずついる。唯一の部員は和田凱(がい)。2年生のFLだ。
「ラグビーは痛い思いをしてやるのが尊いです。だからトライしたら嬉しいです」
丸い曲線を帯びたあご。口角は上がり、目には好奇心に光る。
和田は経験者である。幼稚園の年中で兵庫県ラグビースクールに入った。
「親に連れて行ってもらいました。当たって、みんなと前進するのが楽しかったです」
その競技をひとりになっても続けている。
この秋、全国大会の京都府予選にはひとつだけの合同チームで出場した。構成しているのは7校。洛星を含め、亀岡や同志社国際など。大会は105回である。
1回戦は京都先端科学大附に31-7で勝利した。和田は後半から出場した。
「勝って、おーおーって感じでした」
2回戦は10月11日。4強入りする東山に7-54で敗れた。
和田の2年秋のラグビーは2戦で終わった。合同のよさに目を向ける。
「普通なら敵になる高校の子らとチームを組めます。仲間になれます」
洛星とは違う世界を見る。つながりを知る。それは和田の経験として積まれてゆく。
試合に付き添った、たったひとりの顧問は青木五郎である。和田には感謝がある。
「つなげてくれました」
面長の日焼けが経験者の雰囲気を醸し出す。青木は65歳。この年度末で化学の専任教員を定年で終え、講師に移る予定だ。
和田は今、<クリスマス・タブロー>に取り組んでいる。タブローはフランス語で活人画と訳される。衣装やセットを用いながら、朗読が主体だ。動的な劇とは一線を画す。
このタブローはイエス・キリストの生誕を描き、中高500人ほどが参加する。洛星の一大行事だ。中高の全生徒数は1200人ほど。1学年5クラスで編成されている。
和田の担当は舞台演出である。
「彼は色々なことをやりたいようです」
青木は興味関心が多い17歳の姿を見守る。和田はタブローでの中心でもあり、1月の合同チームによる新人戦出場は微妙だ。
洛星の高校生は通常、3年春の府総体(春季大会)で引退する。青木は解説する。
「その時期は個人に任せています」
その青木こそが創部者でもある。
京都府大会のパンフレットに書かれている。
<平成4年に同好会として設立>
1992年である。前年に青木が赴任した。同好会ができた7年後に部に昇格する。そのジャージーは青と白の太い段柄である。
同好会設立において生徒の中心になったのは原正和だ。南京都ラグビースクール出身の原はのちに校長になる勘田紘一に相談する。
「青木に作ってもらえ」
青木は小2で競技を始めていた。1967年に作られた京都ラグビースクールである。
青木の父の英五郎は東京の旧制・芝中学でラグビーをやっていた。長じて弁護士になった。裁判官から転じる。1951年に起こった強盗殺人の八海事件における裁判の経緯で義憤にかられたからだ。骨のある人だった。
青木の高校は大谷。競技を続けた。CTBだった。大学は琉球。化学を専攻した後、会社員を2年経験する。そして、啓光学園に化学の教員として赴任した。
この中学にも青木はラグビー部を作った。
「杉本が高校生の球拾いをしていました。それなら部を作ってあげようと思いました」
杉本誠二郎のことである。のちに、杉本はこの高校の監督になり、88回全国大会(2008年度)で同校を7回目の優勝に導いた。
その時の校名は常翔啓光学園に変わっていた。経営難から学校法人<常翔学園>の傘下に入った。決勝戦は御所工・実に24-15。この実業校も今は御所工になっている。
その時の流れに関係なく、青木は洛星のラグビーを守っている。啓光学園に6年、勤務した後、洛星に移った。創部1期生にあたる原は3年時、副将になり、主将には同期の金村斉(かなむら・ひとし)がついた。
NO8だった原は弁護士になり、SOだった金村は整形外科医になった。原は日本ラグビー協会のジュディシャル・オフィサーをつとめている。反則などに関して、事実の有無を判定、懲罰が必要かどうかを判断する。
原や金村を始祖とする洛星の府大会における最高位を青木は話す。
「ベスト8です」
B級レフリーでもある青木はまた、京都の高校ラグビーの歴史を知る。
「最盛期には単独のみで44校ありました」
今年は合同を含め15チーム。少子化のなどの影響で3分の1に落ち込んでいる。
その状況でも洛星は部を保っている。青木は後継の顧問のことも気にはなる。
「ラグビーができる人が入ってくれたらいいですね」
その教員採用は狭き門だ。もし経験者が突破してくれれば、つながる可能性は高くなる。
青木はラグビーのよさを言う。
「大人数で楽しめるところですね」
目標をみんなで達成する喜び。他者への思いやり。そして、この競技は15あるどのポジションもその重みは等しい。
洛星の中学には同好会の形で、タッチフットに興じる5人がいる。その未来の種と今ここに存在する和田を大切してゆきたい。



