国内 2025.10.26

度重なる負傷を乗り越えて。奥平一磨呂[関西大/FL]

[ 明石尚之 ]
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度重なる負傷を乗り越えて。奥平一磨呂[関西大/FL]
183センチ、95キロのフランカー(撮影:平本芳臣)

 一磨呂と書いて「いちまろ」。「一」には、なんでも一番になってほしいという父の願いが込められる。

「一に合わせて、和風な名前をつけてもらいました」

 奥平一磨呂が、笑顔で名前の由来を伝える。
 10月5日、関西大学に勝利をもたらした。

 天理大、京産大に連敗して迎えた第3節、春に19-64と大敗した近大を相手に今季初勝利を掴んだ。
 30-27と接戦を勝ち切った。

「トップ2に必ず勝ちにいこうと意気込んでシーズンに入りました。そこが上手くいかなくても、(近大戦前に)しっかり課題を明確にして、チームが同じ方向を向いて練習できた。それが大きかったと思います」

 7試合を戦う関西リーグで「5勝」を目標に掲げるチームにあって、序盤の連敗は大きな痛手だ。
 しかし京産大戦後、気持ちを落とすことなく1週間を過ごせた。そのチームを率いたキャプテンは、自分の手柄にはしなかった。

「僕だけの力ではまったくありません。全員が5勝という目標に対して貪欲に、本気で取り組んでいます。今日はもう落とせないと分かっていたので、一人ひとりが目の色を変えて、責任を持って準備できました」

 自身は約1年ぶりの先発だった。「みんなのために、とにかくベストを尽くそうと思っていた」という言葉通り、鋭いタックルを連発した。前半5分には先制トライも挙げた。

 ケガに苦しんだ大学生活だった。

 1年時からレギュラーの座を射止めるも、2年の夏前、右目に網膜剥離を患う。
 半年かけて復帰した3年の春に、今度は練習試合で右足の前十字靭帯を断裂した。秋の摂南大戦で再び同じ箇所を負傷した。

 今季は春、夏と全休。実戦復帰は関西リーグの初戦だった。

「いろんな人に本当に支えられました。みんなが小さな声かけをしてくれるだけでも嬉しかったし、みんなが活躍している姿を見ると悔しい気持ちも湧いてきた。 1日1日、その日だけを頑張るというマインドで頑張ってきました」

 決してめげなかった。グラウンドに立てた期間は限られていたが、その場でできる最大限のことに励んだ。
「ケガ人同士など小さいコミュニティーでずっと声をかけ続けることだけは意識した」という。

 その姿勢を評価され、キャプテンになった。ただ本人は「まとめる力やキャプテンシーは、僕よりバイスキャプテンの谷口(永輝)の方がある」と謙遜する。

「彼は僕のロールモデルです。春は(副将の﨑田士人もケガで欠きながら)チームを鼓舞し続けてくれて、一人でリーダーを務めるのはすごく大変だった思うけど、しっかりまとめ上げてくれました」

 気配りの人は、愛知県出身。二人の兄と同じく、5歳から名古屋ラグビースクールに通った。
 年子の兄・都太郎(同志社大→中部電力)とプレースタイルは似る。

「兄のプレーに憧れていました。とにかく見よう見まねでマネしていたら、タックルが少しずつ自分の武器になりました」

 東海大大阪仰星進学も兄の影響だ。3年時には主戦のLOとして、日本一の一員となった。
 ここでも「いろんなチームメイトに恵まれました」と話す。

「良い影響を受けて、僕が試合に出ることができて、勝つことができた。大学では僕が良い影響を与えられる選手になりたいと思いました」

 日本一の高校から関西で下位に位置する大学へ。だからこそ、感じられる勝利の味があるという。

「勝って当たり前のチームではありませんが、今日みたいに勝つとすごく一体感が生まれるんです。この喜びはなかなか味わえないもの。たまらない喜びです。継続して勝っていきたいです」

 10月26日の第4節は関西学院大と対戦する。
 3季ぶりの勝利を目指す。

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