国内 2025.10.21
生まれ変わる、ライナーズ。

生まれ変わる、ライナーズ。

[ 赤木元太郎 ]

ハルカス登頂──“やり切る”体験
 太田春樹の企画はまだ続く。9月26日、ホーム花園からあべのハルカスまで歩行・登頂をする「決起ウォーク」を実施。約12Kmの行程である。

 あべのハルカスもまた近鉄を象徴するシンボルである。自分たちも近鉄のシンボルとなる、そういう決意が込められている。

 午前の練習を終えた選手、スタッフは昼食と休憩を取り、13時に花園を出発。先のチームビルディング同様、選手・スタッフ混成のミニチームに分かれての行軍だ。ハルカスまでは約3時間、息つく間もなく階段で地上60階のヘリポートまで駆け上がる。

「東花園から天王寺まで歩いてくるのもめちゃくちゃきつかった。階段は皆で歌を歌いながら根性で上りました。」そう答えるのは新人のWTB中川湧眞だ。ハルカスを所有する近鉄不動産の社員でもある。

 頂上からの景色を見て「やっぱり自分たちもテッペンの景色を見ないといけないですね」。DIVISION1への昇格、そしてその先に向かう決意を新たにした。

 今季から加入したSH藤原恵太はこの二つの企画を振り返り「チームの結束力が一段と強まった実感がある。シャトルズで3年連続の入れ替え戦を経験し、その難しさを理解している。昇格までは困難な道のりがある、ハルカスを登るように一つひとつ高見を目指していきたい。そしてチームがタイトな時に引っ張って行けるような選手になりたいと」と話す。

 これらの企画を巡ってはチーム内からも賛否両論があったという。選手のコンディションを預かるメディカルスタッフからはネガティブな意見もあった。そこで監督はオフを利用し自らが実験台となり、花園からハルカスまで歩き切った。出来ない理由を並べるのは簡単だ。どうすれば出来るか、それを考える癖をつけて欲しい。これも監督からのメッセージである。

 当日は、グラウンドに関わるスタッフは全員強制的に参加を求め、スタッフも期待に応えた。唯一の女性スタッフのチームコーディネーター兼通訳の前田啓子さんも全行程を完歩した。スタッフのチームコミットメントにも感謝を口にする。

 テーマは“やり切る”。選手とスタッフが一丸となってしんどいことを一緒に乗り越える、それぞれがチームのために行動する、その成功体験を一つひとつ積み上げていくことに意味がある。

覚悟と責任を背負う
 チームスタートからあらゆる場面で語ってきた「覚悟」。チームでは日々様々な意見が出る。現場からの意見はどんどん出してほしい。そのために言いにくい事も言える環境を作っている。

 チームのためだと考えると、言いにくいことを言ってくれるのは有難い。意見を収集し、最終的に決めるのは自分。その責任は取る。その役割が監督にはある。

 それぞれの役割を与えられた権限内で遂行する組織は強い。監督という役割には決断することが求められる。

「結果はどうなるか分からない。ただこれを続けて行けば自然とついてくる、今はそう思っています。」

 苦しい時に自分たちが立ち返る土台を再構築する、チーム始動からシーズン開幕まで時間が限られる中で、ラグビーの戦術面と両立して進めることへの不安はないかを問うてみた。

「確かに遅れが出るところもあります。ただ、グラウンドでのパフォーマンスは、練習だけではないです。チームカルチャー、チームへの愛、仲間との絆、数字では計りきれない部分が重要だと私は思っています。ライナーズが変わるには後にも先にも今、このタイミングしかない。そこは覚悟を持ってやり切ります」

 今季のライナーズは一味違う。
 近鉄漢の矜持を胸に、挑戦を続けるその姿に注目したい。

今季よりライナーズの指揮官に就任した太田春樹監督。1987年生まれの38歳

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