国内 2025.10.02

もう一度、日本一の景色を。中森真翔[筑波大/FL]

[ 明石尚之 ]
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もう一度、日本一の景色を。中森真翔[筑波大/FL]
3人兄弟の長男。妹の波奈は関東学院六浦高に通う2年生。170センチと長身のPR。弟の真海は小学5年生。長男よりも身長の伸びが早いそう(撮影:福島宏治)

 9月14日、その名が全国区になった。

 中森真翔(なかもり・まなと)。筑波大に通う2年生だ。

 明大を破った関東大学対抗戦の開幕戦で、プレイヤー・オブ・ザ・マッチに輝く。

 191センチの長躯を生かし、空中戦を制圧。相手のラインアウトにプレッシャーをかけ続けた。
 地上では前半26分のトライに繋がるラインブレイクに加え、後半35分にはトライも挙げた。

 喜びは勝利だけでなく、個人の成長にも向けられた。
 ルーキーイヤーとなった昨季の明大戦はNO8で先発、フル出場したが「納得のいくパフォーマンスができませんでした」。

「フィジカルもまだ全然足りていないと感じましたし、たくさんの課題をもらった試合でした」

 大学入学時の体重は90キロと、その身長に対しては軽かった。

 その頃から食トレは続けていた。筑波大は寮を持たない。地域の方の協力で格安で提供される週2回の朝食を除けば、食事は自炊や外食が基本だ。

「炊飯器で常に5合くらい炊いています。冷蔵庫にはお肉を必ずストックしていますし、暇さえあれば何かしら食べています」

 昨夏には「料理はめちゃくちゃ苦手」と明かし、「鶏胸肉のステーキにわさび醤油や焼肉のタレを付けて食べたり…食材をそのまま放り込んで、調味料を突っ込んだら食べられるものばかり」と話していた。

 練習後はプロテインを飲むだけでなく、最後までグラウンドに残り、ダンボールに目を光らせる。
 お目当ては、地元のどら焼き専門店から提供されるどら焼きだ。

「悪いことをしている気分になりますが、他の人が持って帰らなかったどら焼きは全部、家に持って帰って食べています」

 昨季の明大戦に加え、今春に参加したJTS(ジャパン・タレント・スコット)、夏のU23日本代表の活動でも、サイズアップの必要性を再認識した。
 サラダチキンなど肉から摂れるタンパク質の摂取を心がけるようになった。物価高に悩みながらも、両親から送られる食費に支えられている。

「去年は試合が終わると体重がすごく落ちて、少し増やしたと思ったら、次の試合でグッと減ってというのを繰り返しました。今年は本当にその意識が変わって、体重計に乗る回数がすごく増えました」

 成果も徐々に現れている。いまは昨春よりも7キロ増の97キロをキープ。体脂肪を減らしながら増量できたことで、持ち前のスピードも落ちなかった。

「今回の明治戦は去年受けてしまっていた接点で前に出られたり、すごく手応えがありました。ただ、一番変わったのは自分の強みを出せたことだと思います。去年は自分らしさを出せないまま80分間が終わってしまったけど、今年は自分の強みをあらためて理解した上で試合に臨めていました」

 エディー・ジョーンズHCかはも高く評価される、その武器の原点は陸上競技にある。
 砲丸投げ、円盤投げをそれぞれ専門とした父母の影響で、小学1年時から元オリンピック選手の高野進先生が教える陸上クラブ「アスレティクスアカデミー」に通った。

 専門は100メートル走。県大会で準優勝したこともある。

 中学卒業までは、陸上とラグビーを並行した。
「週末は横浜ラグビースクールから(陸上の練習拠点である)東海大学に移動して、ラグビーの格好のまま陸上をしていました。どっちも楽しかったので大変だとは思いませんでしたし、陸上があってのいまだと感じています」

 ラグビーを始めたのは小学3年時からだ。サントリーで働く父とともに、サンゴリアスの試合観戦に会場までよく足を運んでいた。
 当時は走力自慢が集まるWTBだった。

 高校は桐蔭学園に進学。横浜ラグビースクールの先輩でもある佐藤健次(現・埼玉ワイルドナイツ)に憧れた。

「陸上は親の影響で始めましたが、ラグビーは自分からやりたいと思って始めました。なので高校からはラグビー1本にしました」

 2年時からLOのレギュラーを勝ち取り、3年時には花園優勝に貢献した。「いまでもあの花園の景色はさっきのことのように覚えている」という。

「大学でも日本一の景色を見たいです。そのためにも、もっとチームに貢献します」

 筑波大がいまだ成し遂げたことのない選手権優勝まで走り切りたい。

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