ルーキーにして統率者の風情。慶大・申驥世は「どれだけ悔しく思えるかが大事」

可能性は限りないと信じる。
慶大ラグビー部で新人ながら1軍定着の申驥世は、世代有数のリーダーであり、ファイターでもある。
昨季は神奈川の桐蔭学園高で主将を務め、冬の全国高校ラグビー大会で2連覇。慶大の門を叩く前には、高校日本代表の船頭役としてイングランドで戦った。
いまはスポーツ推薦のないクラブで、多士済々のメンバーと過ごす。将来について聞かれれば、フィールド外に視野を広げて話す。
「(慶大には)ラグビーをやってきて、うまくて…というだけではなく、色々と苦労してきた、人間として面白いキャラクターがいる。寮でも勉強したり、ビジネスについて考えたりしている人もいる。刺激的です。自分はまずは大学1年目のシーズンと勉強に集中して、2、3年目に(進路を)決めていきたいです。ラグビーをするとも、就職をするとも、決めていないです」
フィールド上でのインパクトは絶大だ。
9月28日には東京・秩父宮ラグビー場で、加盟する関東大学対抗戦Aの筑波大戦へ出た。競技の聖地と呼ばれるこの会場は今回が初体験。瑞々しい所感が漏れた。
「いい芝で。話には聞いていましたが、バック(スタンドとピッチの距離)が近くて、歓声が聞こえてきた。やっていて楽しいスタジアムでした。きょう、入場した時も、興奮しました。『秩父宮でできているんだな』というのが、嬉しかったです」
開幕から2試合連続で先発入りし、連勝を目指して防御の壁を突き破る突進、トップスピードでタックラーを引き寄せてのパスと、爪痕を残した。何より守りでも光った。
7点差を追う前半ロスタイム47分頃。自陣ゴール前右側のスペースを攻められると見るや、逆側の前衛から危険地帯へ先回りした。向こうがパスを繋ぐのを見定め、抜け出してきた走者へ鋭く突き刺さった。起き上がってさらなる展開にも備え、その場はノートライでしのいだ。
もっとも本人は、己に高いハードルを課す。
件の好カバーの直後に放った一撃をかわされ、失点した後半6分頃にもタックルでエラーしたのを鑑みてか、改善点を口にした。
「いいところもあったのですが、タックルミスが目立って…。そこからピンチが生まれ、トライを取られたこともあった。チームに迷惑をかけたので、課題だなと」
身長175センチ、体重93キロ。一線級のFW第3列にあってはやや小柄も、身体衝突では引けを取らない。持てる力を最大化すべく、OBで元FL兼主将でもある青貫浩之監督に多くを学ぶ。
「事細かく教えてくれて、いいフィードバックもくれます。アタックやディフェンスの立ち位置、かける時のタイミング…」
ここでの「かける」とは、相手がボールを出そうとする接点へ身体をぶつける動きを指す。そのタイミング、高さにこだわるようになった。
自ら身体を張るのみならず、防御ライン全体の統率もするよう託される。
「もともと高校の頃からそういうのを意識していた。自分に合った目標をくれています」
シーズン開幕前、指揮官は、厳しい要求を口にしながら期待感も明かしていた。
「戦う人間。だから起用しています。運動量、タックルの精度、激しさは、まだ大学の1本目(レギュラー)で通じるFLではない。ただ、マインドセットを含めて素晴らしい。」
筑波大戦は12-21で敗れた。1999年度を最後に学生王者の座から遠ざかる古豪にあって、高校で多くの成功体験を得た19歳は「(個人では)コンタクトのところは通用する感覚はある。もっと、ボールに絡みにいければよかったかな」と皮膚感覚を述べる。
ここから続くのは、勇ましい宣言だ。
「本当に日本一に目指すようになれば、もっとチームはよくなります。きょうも『筑波大といい試合ができた』ではなく、どれだけ悔しく思えるかが大事です」